墨田区京島の老舗コッペパン専門店「ハト屋」が復活 近所の60代女性が老後資金で店買い取り

2021年2月1日 07時04分

看板や店構えも味がある墨田区京島の「ハト屋パン店」

 墨田区京島のキラキラ橘商店街で長く愛されたコッペパン専門店「ハト屋パン店」。数年前に店主が亡くなり閉店したが、昨年、会社勤めの女性が老後資金をつぎ込んで買い取った。会社とパン屋の二足のわらじを続ける女性の思いとは−。
 「ピーナツバターとイチゴジャムください」。土曜日の寒い朝、冷たい雨がそぼ降る中、パンを買い求める客が途切れない。店内をのぞき込み、「お店復活したんですか? 頑張ってください」と声をかける人もいた。

焼き上がったコッペパンを運ぶ紙田和代さん

 「お客さんから『おいしい』と言ってもらえるのが励みになります」。店主の紙田和代さん(60)は焼きたてのパンをショーケースに並べながら笑みを見せた。
 紙田さんによると、ハト屋は大正元(一九一二)年創業といわれ、「ポチもほしがるハト屋のパン」というキャッチフレーズで焼きたてのコッペパンが人気だった。
 同商店街がある向島橘銀座商店街協同組合の大和和道事務局長(67)は「若い時は、ハト屋のコッペパンに商店街の総菜屋で売っているコロッケをはさんで食べた。おいしかったよ」と懐かしむ。
 しかし、二代目の店主の男性が数年前に亡くなり閉店した。
 雨風にさらされ日に日に傷んでいく店の様子が気になっていた紙田さんは昨年夏、店が売りに出されていることを知る。店を解体して新しくビルを建てるとのうわさもあった。古くからの名物店が商店街から減っていく現状を見かね、「自分が買うしかない」と決意した。
 「空き家だらけでは地域の活力がなくなる。建て替えるのは簡単だが、地域らしさや文化、歴史を残すことも大切」
 建物の買収と店舗の改装や耐震補強にかかった千六百三十万円は老後資金を充てた。
 紙田さんは大学院で都市政策を研究し、現在は都内の都市計画コンサルタント会社の役員を務める。
 東日本大震災の被災地、岩手県宮古市田老地区でボランティアでカフェ「たろうの浜小屋」を運営し、週末は東京から田老に通ったこともある。
 以前は目黒区に住んでいたが、二〇〇五年、墨田区の基本構想・基本計画策定の仕事がきっかけで、京島の長屋に引っ越した。
 東京大空襲で焼け残った長屋や民家が多く残されている京島。「ハト屋のもつ風合いを大事にしたい」と、昔からの看板や外観は残した。
 パンづくりは初めてだったが、パンやカステラが得意な友人から教えてもらい、試行錯誤を重ねた。
 昨年十一月、ようやく店を再開。

ローストビーフ・レタスサンド

 味は以前のものとは異なり、昔からの客に「味が違う」と言われることもあるが、「今のパンのほうが柔らかいし、味は負けていない」と気にしない。
 パンの仕込みのため午前四時には起床。出勤前の午前六時半から店に立つ。会社員や親子連れなどが立ち寄り、用意した百個のパンはあっという間に売り切れる。
 パン店と仕事で毎日の睡眠時間は四時間ほど。「老後資金と睡眠時間を削っている」と言うが、紙田さんは疲れた様子もない。
 自腹を切って再開した店だが、経営にこだわっているわけでもない。
 「コッペパンが好きな人が、引き継いでくれたらうれしい」

トートバッグも販売

<ハト屋パン店> 墨田区京島3の23の10。最寄り駅は京成曳舟駅。月−木曜午前6時半〜同8時半。金曜定休日。土日午前6時半〜午後6時。コッペパンの販売のほか、店内ではコッペパンのフレンチトーストなどが楽しめるセットもある。
 文・砂上麻子/写真・坂本亜由理
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