「アニメ大国」対談 中川右介「原作漫画なし」歴史転換 三沢典丈、正義・平和など思考の基礎  

2021年2月1日 07時27分
 かつて東京新聞・中日新聞で連載された「アニメ大国の肖像」が『アニメ大国の神様たち』(イースト・プレス)として本になりました。きっかけは昨年、『アニメ大国建国紀』(同)を著したばかりの作家・編集者の中川右介さんの働き掛け。出版の狙いや意義について語り合いました。 (三沢典丈)
 三沢 今回の書籍化は、中川さんに私の連載を出版社にご紹介いただいたことで実現しました。ありがとうございました。

中川右介

 中川 日本のテレビアニメの歴史について書こうと調べているうちに三沢さんの連載を知り、「埋もれさせるのはもったいない」と思ったのです。
 三沢 この連載は、子どものころ見たアニメを「誰が作ったのか」が出発点。アニメからは正義、平和の大切さなどを学び、影響は小説などよりも大きい。その制作者の思いを知ることは、自分の思考の基礎を知る上でも有用と思った。
 中川 僕は、日本のアニメが漫画の原作から発展していった点を特徴的と捉えた。ヒットアニメにも漫画原作がある。なので、『建国紀』では必要以上に漫画家について詳しく書いた。
 三沢 他方、虫プロより前に東映動画があった。王道の「東洋のディズニー」を目指し、宮崎駿さん、高畑勲さんなどが輩出した。
 中川 そこに突然変異的に生まれた手塚治虫の虫プロが加わり、日本のアニメの発展に大きく貢献した。その成功に刺激され、スタジオゼロ、タツノコプロなど、漫画家がアニメ制作に乗り出した。

三沢典丈

 三沢 そうですね。そのどちらの出身者とも「先人がやったことはやりたくない」人たち。そこで動画枚数が限られたテレビアニメで、出崎統(でざきおさむ)さんの「止め絵」などの表現が出てきた。日本のテレビアニメは安価で海外に輸出され、その後、ネットで海賊版が流出したこともあって、功罪はともかく、独特な日本アニメを見るためのリテラシーが世界中に伝わった。その貢献は非常に大きい。
 中川 1960年生まれの僕は、ちょうど日本アニメと共に成長してきた。63年に放映が始まった「鉄腕アトム」は途中から、「パーマン」や「オバケのQ太郎」は本放送を見た。そして中学生で「ルパン三世」や「宇宙戦艦ヤマト」といった中高生向けのアニメが始まった。僕が大学生になると「機動戦士ガンダム」が登場し、20代でジブリアニメが登場する。
 三沢 進化を肌で感じてこられたのですね。
 中川 その過程で、決定的に変わるのが僕の本が終わる73年。「ヤマト」が始まると、友だちの間で「これは誰が原作者なのか」と話題になった。それまでのアニメはあくまで漫画の「アニメ化」で、原作者がすごく重要視されていた。だが、「ヤマト」に漫画の原作はない。このころもう一つの転換があった。「ガンダム」も原作漫画はありません。
 三沢 「新世紀エヴァンゲリオン」もそう。
 中川 エポックメーキングなものは、脚本家や演出家などみんなの知恵を集めて作る。その一方、宮崎さんや新海誠さんなど作家性の強い作品も出てきた。ただし、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は原作はあるけど、誰が監督なのかは注目されない。一方向に進まないのは面白い。
 三沢 この2冊、どんな読者に薦めたいですか。
 中川 『建国紀』は、膨大な文献をまとめて一つの歴史として描き出した。一方、当事者の声にしか興味がない人には『神様たち』。いわば補完関係になる。この時代の作品を知っている人が、当時を思い出しながら楽しんでもらうのと同時に、この時代を知らない人にも歴史として知ってほしい。
 三沢 若い人には、動画配信で過去のアニメを見ながら、読んでもらうのもいいかと…。あと、大学の図書館に置いてもらって、学術研究に役立ててほしい。
 中川 いずれの本の登場人物も、芸術家と金もうけのどちらにも振り切れることがなく、もやもやを抱えながら、いいものを作ろうとする。似た立場にいる人にも読んでもらえればいいですね。
<なかがわ・ゆうすけ> 1960年生まれ。作家・編集者。膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こす執筆スタイルが人気。漫画のほか、クラシック、歌舞伎、映画、歌謡曲にも精通する。著書に『手塚治虫とトキワ荘』『サブカル勃興史』など多数。
<みさわ・のりたけ> 1966年生まれ。早稲田大卒業後、中日新聞社に入社。名古屋本社社会部、文化部、東京新聞(中日新聞東京本社)特別報道部などを経て現在、同文化芸能部。

(イースト・プレス 1870円)

 東京新聞・中日新聞で2005〜08年に連載された「アニメ大国の肖像」を書籍化。富野由悠季、安彦良和、辻真先、雪室俊一、出崎統、芝山努ら、傑作を生んだ超一流「職人」たちのインタビュー集。

(イースト・プレス 2145円)

 日本初の毎週1話30分もののテレビアニメ「鉄腕アトム」制作のため、手塚治虫が設立した「虫プロ」を中心に、日本のテレビアニメの黎明期の出来事を年代順に詳述。著者による『手塚治虫とトキワ荘』の続編。

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