埼玉は方言漢字の聖地!? 地域の宝 歴史の証し

2021年2月4日 07時08分

方言漢字の聖地・埼玉県八潮市垳に立つ昼間良次さん

 言葉に地域差があるように、漢字にも特定の土地や姓だけに使われる「方言漢字」が全国各地にある。他の用例をほとんど見かけない埼玉県の「埼」などが代表的だ。この魅力に取りつかれた埼玉の愛好家が、県内のあちこちに残る方言漢字をマップにまとめた。なぜ、そこまでハマるのか。
 「この辺りは方言漢字だらけの聖地なんです」。県内有数の工業地帯である八潮市。独協大の職員で市内に住む昼間良次さん(47)が声を弾ませながら、つくばエクスプレス八潮駅周辺を案内してくれた。
 まず、お隣の東京都足立区との境に立つのが「埼玉県」の看板。さらに昼間さんのイチオシが、この地区の名称である「垳」だ。日本で独自に考案された和製漢字で、「がけ」と読む。意味は「崖」と同じだが、字(あざ)名で用いるのは全国でここだけ。都県境には垳川も流れる。

垳の町会館看板

 「十年ほど前に同僚に借りて読んだ学術誌で日本で唯一と知り、跳び上がるほど驚いた」と昼間さん。少年時代に対戦した地元野球チームの、ユニホームの胸に大きくプリントされていた「垳」の一文字が鮮やかによみがえった。
 そんな「オンリーワン」もピンチを迎えている。二〇一二年、駅周辺の区画整理事業に伴い、地名変更案が浮上。消滅の懸念がくすぶり続ける。昼間さんは仲間とともに「『垳』を守る会」を立ち上げ、その活動をきっかけに方言漢字への関心を深めた。
 全国の愛好家に呼びかけ、「方言漢字サミット」を一七年から八潮で開催。昨年はコロナ禍で中止となったものの、埼玉県が誕生して今年で百五十年の節目に合わせて方言漢字マップを完成させた。希少な地名を集めたウェブサイトや郷土資料を参考に、現地を訪ね歩いた労作だ。
 例えば、旧大宮市(現さいたま市)に伝わる「蓜(はい)」。昼間さんはこの地に多い「蓜島」姓を冠した店に足を運んだ。店主に由来を尋ねると、「京都にいた先祖が草むらの多い土地に配置替えになったからだ、とおやじに聞いたことがある」。真相は謎だが、一つの伝承が掘り起こされた。「はけ」も県内各地でさまざまな漢字が使われている。
 マップ作りを通して「埼」の価値も見直したという。昼間さんによれば、平安時代の辞書では「宮埼」「城埼」など「埼」を含む地名が数多く見られる。それが時代とともに「崎」に取って代わられた。今では都道府県では埼玉、市町村でも佐賀県神埼(かんざき)市のみだ。
 本紙サンデー版の漢字クイズ出題者で、「方言漢字」の著書もある早稲田大の笹原宏之教授(国語学)は「昔は一般的だった『埼』が今に残り、主に『埼玉』で全国で認知されている。生きた化石のような存在だ」と評価する。
 「ダサいたまと言われても全然気になりません」。昼間さんは「埼」への誇りを胸に、方言漢字は地域の象徴であり宝だと説く。「『埼』も『崎』もどちらが正しいか間違いかではなく、どの文字も歴史を背負ってきた『正解』。だからこそ、飽きないのかもしれない」。方言漢字を巡る旅は当分、終わりそうにない。
 方言漢字マップは希望者に郵送で送る。詳細は「垳」を守る会の公式ブログを。

秩父地方などで食べられる「糅めし」

 文・近藤統義/写真・木口慎子
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