多摩のタヌキも仕事きっちり! イチョウの種運び環境保全に一役

2021年2月5日 07時04分

東京農工大府中キャンパスでタヌキのトイレがあった場所を確かめる大杉滋さん(左)と同大の小池伸介教授

 都市近郊で暮らすタヌキも、山で生活するタヌキと同じように、植物の種子を運ぶ役割を果たしている−。定年退職後に東京農工大大学院で学ぶ杉並区の大杉滋さん(70)が、そんなユニークな研究を続けている。住宅地や商業地に囲まれ、生息する動物の種類が限られる多摩地域の林では、タヌキがイチョウの種を運び、植物の多様性を守っている実態が見えてきたという。
 「ここにタヌキのため糞(ふん)があったんですよ」。大杉さんは東京農工大府中キャンパス(府中市)の林に分け入り、わずかに開けた一角を指さした。

タヌキのトイレ(大杉滋さん提供)

 タヌキは決まった場所に糞をする習性があり、こんもりとした山ができる。タヌキのトイレは「ため糞」「糞場」と呼ばれ、数百メートル〜一キロ四方の縄張りの境界付近に複数箇所つくるという。「採取した糞を冷凍保存して、ある程度の量がたまったら、ざるでこして種子を取り出すんですよ」と大杉さん。糞の中身を調べると、タヌキが何を食べたか分かるのだ。

三鷹市の玉川上水の土手に現れたタヌキ(大杉滋さん提供)

 植物が子孫を残すために種を遠くに運ぶことを「種子散布」という。代表的なのは風に乗せて綿毛を飛ばすタンポポだ。鳥などの動物に実を食べてもらうことで、種を遠くに運ぶ植物もある。ただ、鳥は小さな実しか食べられず、実の大きな植物は種をかみ砕かずに丸のみする大型の動物が頼りとなる。
 タヌキが木の実を食べ、種子散布をしていることは、過去の研究で明らかになっている。だが「都市部や都市近郊のタヌキは残飯を食べていて、種子散布をしていないのではないか」「ため糞では種が密集して、植物がうまく育たないのではないか」との疑問点があった。

樹木などに設置した赤外線カメラ

 そこで大杉さんは、これまで研究されていなかった「タヌキが散布する種子の量」「ため糞での植物の生存率」に着目し、東京農工大府中キャンパスと国際基督教大(三鷹市)、都立農業高校神代(じんだい)農場(調布市)の三カ所で調査。自動撮影カメラを設置してタヌキの行動を確認し、採取した糞を分析した。イチョウや柿、ムクノキ、エノキなどの種を計量し、ため糞でそれらの苗が成長することを確認。その結果、主にイチョウの種を運ぶ役割を果たしていることが分かったという。

調布市の都立農業高校神代農場で撮影されたタヌキ

東京農工大府中キャンパスで撮影された子どもをくわえたタヌキ=いずれも大杉滋さん提供

 「身近な場所で野生の動物を見かけると、うれしくなるじゃないですか」と大杉さんは語る。京都大理学部を卒業後、就職先の保険会社でシステム開発を担当。定年退職後に学び直そうと、二〇一二年に東京農工大農学部に入学した。
 愛犬が木の実を食べるのを見て、種を運ぶ動物の役割に興味を抱き、クマ研究の第一人者、小池伸介教授(41)の指導を受けながらタヌキの研究に着手した。八王子市の山間部などでフィールドワークを行い、大学院進学後は都市近郊の林に研究の舞台を移した。三月に農学博士の学位を取得する見込みで、その後も研究を続ける予定だ。
 タヌキがどこからどこへ種子を運んでいるのか、詳細はまだ分かっていない。「住宅地や商業地で隔てられた林と林を行き来しているのではないか」。大杉さんは今、この推論が検証できたら面白いと考えている。「都市近郊の野生動物は農作物の被害などマイナス面が強調されがちだけれど、環境保全に役立っていることも知ってほしい」
 文・服部展和 写真・伊藤遼
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