<新・笑門来福 笑福亭たま>「不要不急」の線引き

2021年2月5日 07時45分

ワクチン接種のしぐさをする筆者

 政府が「不要不急の外出自粛」を促して一年近くになる。落語は世間で多数決を取れば、当然「不要不急」の職業だ。大概どのエンタメも誰かにとっては必要だが、他の多くの人にとっては不要だ。当初、落語は率先して中止や延期をする公演が多かった。しかし時間がたち、政府のガイドラインにのっとって感染予防策を講じて開催する会も増えてきた。小規模な会も多く、政治家の会議より少ない人数で開催してることも多い。噺家(はなしか)は当初「俺たちは不要不急やからな」と自虐的な雰囲気だったが、今は「俺たちは必要だ!」と自分で叫んでるようにすら感じる(笑)。
 そもそも必要かどうかは他人が決めるものだが、「必要かどうかを審査してもらう=開催するかどうか」を決めるのは自分だ。だから開催すること自体、はばかられたりするのが現状だ。もちろん政府のガイドラインにのっとっている以上、落語会の開催は非難されるべきものではない。人間には息抜きも必要で「お客さまが息抜きをしたい時はお越しください」と店を開けているようなものだ。
 しかし芸人もドンドン苦しくなっているのか、たまに「チケットが売れてないんで、助けると思って来てください」と言う人もいる。こうなると本末転倒だ。「私の命を救うために、あなたは感染リスクを背負って命がけで来てください」と言うてることになる(笑)。エンタメとは「他人を楽しませる」という職業なのに、自分からお客さまに命がけを呼びかけるのはおかしな話である。だが、そもそもそういう非常識で愚かしいことを言う人間が芸人になるのであり、その愚かしさをお客さまは笑いに来ているのかもしれない…。そう思うと、それでええのかもしれない(笑)。
 もし向上心のない落語家が今、コロナ禍以前と同じような芸を見せているだけなら、その人はコロナ終息後でも、きっと同じレベルの芸を見せるだけだろう。まさにその芸は不要不急だ…(←こんなことを言うと同業者から怒られないか心配だが)。しかし、芸は一朝一夕で上達するものでもないし、日々の積み重ねが大事だ。百回の稽古より一回の本番とも言う。そう思うと、一見、不要不急に見える芸も不要不急とは言い切れない。その線引きは本当に難しい。だからこの私の文章も誰かにとっては不要であっても誰かにとっては必要であってほしい。 

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