森氏の発言「もしかして、私のこと?」 日本ラグビー協会の稲沢理事 質問止められたことも

2021年2月6日 06時00分
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさん入る理事会は時間がかかる」などと発言し、撤回した問題で、森氏が2015年まで会長を務めた日本ラグビー協会の理事、稲沢裕子さん(62)昭和女子大特命教授=が5日、取材に応じた。13年に女性で初めて理事に就き、会議で基本的な質問を重ねて森氏に止められた経験も。「女性が増えることは、議論の活性化につながる」と力を込める。(兼村優希)

◆森氏が会長時代、女性理事は私だけ

オンラインで取材に応じる日本ラグビー協会の稲沢裕子理事

 森氏の発言と、ラグビー協会を例に挙げたことを報道で知り、稲沢さんはとっさに「もしかして私のことかな」と思ったという。森氏の会長時代に理事だった女性は自分だけ。「ラグビーのことを全く知らない素人の立場も私だけだった」
 森氏や他の理事は、ラグビー界でキャリアを積んできた人ばかり。自分のもともとの仕事が新聞記者だったこともあり、理事会ではささいな疑問も遠慮せず質問した。「非常に長引かせた張本人だと思う」。会議の場では矢継ぎ早に問いを投げかけ、森氏に制止されたこともあった。「そんなことは、直接担当者に聞けば良いじゃないかと思われたのは当然」と苦笑する。

◆「女性かどうかではなく、活発な議論必要」

 ただ、会議が長引くのを女性と結び付けた森氏の発言は「正しくない」と断じる。「女性かどうかではなく、議論しなければならないことは時間がかかる。活発に議論することは必要」
 当時は出場選手が男子に偏りがあったレスリングが五輪種目から除外されそうになり、柔道では男性指導者による女子選手へのパワハラが明るみに出るなど、スポーツ界が揺れていた。競技団体の役員に女性がほとんどいないことも問題視され、女性問題を長く取材していた稲沢さんに声がかかった。むしろ「ラグビーの素人」としての意見を求められての起用だった。

◆私1人の発言が「全て『女は』になってしまう」

 4年ほど女性1人で理事を続けた中で感じたのは、「1人だと、浮く」ということ。「私の言動が、全て『女は』になってしまう。私1人の発言でしかないのに、あたかも女性が皆そう思っているみたいに捉えられかねない」。女性理事が5人に増えた現在は「それぞれの観点から質問し、議論している。それは男性理事も含めて。性別は薄れている」と肌で感じている。
 森氏の発言には大きな反応があったことに希望を見いだす。「男性もおかしいと声を上げてくれた。間違いなく社会は良い方向に変わっていく」
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◆「男女問わず、おかしいと言える社会に」…稲沢裕子理事との一問一答

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長による発言について、日本ラグビー協会の稲沢裕子理事の主な一問一答は次の通り。(兼村優希)
 ―森会長の「女性がたくさん入る理事会は時間がかかる」との言葉をどう受け止めた。
 「『女性が増えると発言が長いから、増やすのは大変だろう』という議論の組み立ては事実と違う。むしろ、異質なものが入ることで議論は活性化する。今まで当たり前だったものが、改めて基本的なところから問い直すと、本当は必要ないことかもしれない。女性が入ることで議論が始まるものもある」
 ―実際、森会長にそう言われるような心当たりは。
 「森さんが会長のころ、私の発言を制止された記憶は、正直ある。私は新聞記者だったので、質問をするのが仕事。しかも、初の女性であり、ラグビーのことを全く知らない素人。理事会でも次々と分からないことは聞いちゃう。止められたとき、どんな話をしていたかは覚えていないが、時間はきっと延びていた。逆に他の理事は見えない序列があるようで、質問しにくく、『代わりに聞いてほしい』と頼まれることもあった」
 ―就任時、男性の中に1人で飛び込むやりにくさは。
 「男女雇用機会均等法の前に記者になったので、男性ばかりの中で会議をし、記者会見に出て…という時代。慣れていた。ただ、今回の報道で森さんの発言に笑いが起きたと。私もあのころは笑う側。笑って受け流し、男性社会の仲間に入れてもらおうとしていた。いまだに日本が(男女格差を示す)ジェンダー・ギャップ指数121位にいる土壌をつくってしまった。男女問わず、その場で『おかしい』と言える社会にしたい」
 ―森会長に女性蔑視の考えはあったと思うか。
 「森さんには、蔑視するという意識はないと思う。ただ、そもそも日本には、『女性は話が長い』と思いがちな風潮が根強くある。そうした女性に対するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見、思い込み)の一側面ではないか。認識がないまましゃべってしまい、後から指摘されて初めてバイアスがあったと気付く」
 ―競技団体に健全運営を促す国の指針「ガバナンスコード」は、女性理事の割合を40%以上にするよう目標を掲げる。
 「言ってみれば、(一定割合の女性を任用する)クオータ制を導入した、貴重なコード。ただ正直、ラグビーの競技人口は男性と女性で桁が違う。私が決める立場ではないけど、協会でもいきなり40%は難しいが増やす努力はしていく」

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