米中対立の新たな火種に ミャンマーのクーデター

2021年2月7日 06時00分

6日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで行われたクーデターへの抗議デモで、アウン・サン・スー・チー氏の横断幕を掲げる人たち=共同

 国軍がクーデターで実権を掌握したミャンマーが、米中両国の対立の新たな最前線になっている。民主主義の価値を重視し、国際協調をうたうバイデン政権が発足した米国と、その米国に並びかける大国として影響力の拡大を目指す中国の思惑が交錯している。(ワシントン・金杉貴雄、北京・中沢穣)

◆バイデン政権の早くも試金石に

 「民主主義勢力において、力で国民の意思を覆したり、選挙の結果を消そうとしたりしてはならないことに、疑いの余地はない」。バイデン米大統領は4日、初の外交演説でミャンマー問題を真っ先に取り上げ、政権としていかに重視しているかを示した。
 理由は、「世界の民主主義の勢力を結集し、リードする」との目標を掲げるバイデン政権に発足早々、訪れた試金石だからだ。
 トランプ前大統領の「米国第一主義」と異なり、バイデン氏は国際的な協調を主導して米国の力を発揮する考え。他の民主主義国と足並みをそろえることが欠かせず、すみやかに非合法的な暴力で政権を奪う「軍事クーデター」と認定した上で、日本を含む先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)でクーデターを非難する共同の外相声明をとりまとめた。

◆民主主義国の包囲網で中国に圧力

 意識しているのは、中国だ。国内で言論の自由を抑圧する中国やロシアが入る国連安全保障理事会で、強い非難がまとまらないのは織り込み済み。むしろインドなどを含め民主主義国の包囲網づくりを進め、ミャンマーだけでなく、自由や民主主義の価値を無視する形で大国化する中国に圧力をかける狙いだ。

6日、ヤンゴンでデモが行われている付近の幹線道路を封鎖する警察当局ら=共同


 だが、ジレンマも抱える。ミャンマー情勢を具体的に好転させられるか見通せない。制裁を復活させても、ミャンマーと米国の貿易は中国の10分の1程度とされ、影響力は限定的。国際包囲網で圧力をかけて孤立させるほど、かえってミャンマーを対中依存に追い込んでしまう恐れがある。

◆静観続ける中国は影響力拡大も視野

 ミャンマーの「民主化」を後押しする欧米の価値観と一線を画す中国は、クーデターに静観を続ける。外務省のおう文斌ぶんひん副報道局長は4日の記者会見で「ミャンマーが政治と社会の安定を維持することを望む」と3日続けて同じ発言を繰り返した。背景にはクーデターの帰結にかかわらず友好を保ち、あわよくば影響力を広げたい思惑もある。
 中国にとってミャンマーは地政学的な重要性から「どの勢力が政権を握っても関係維持を図るべき相手」(東南アジア外交筋)だ。インド洋沿岸の都市チャウピューは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の重要拠点に位置付けられる。米国などが強い影響力を持つマラッカ海峡を経由せず、中国とインド洋を結ぶ天然ガスと原油のパイプラインがすでに通り、並行する鉄道の建設計画もある。
 両国の近年の接近は、少数民族ロヒンギャへの迫害を巡り、アウン・サン・スー・チー氏率いる文民政権が欧米から非難を浴びたのがきっかけだ。中国は政権に理解を示して助け舟を出し、一気に距離を縮めた。

◆クーデター情報は中国側に事前通知?

 一方、中国は国軍への配慮も欠かさない。1月中旬にミャンマーを訪れた王毅おうき国務委員兼外相はスー・チー氏だけでなく、ミン・アウン・フライン国軍総司令官とも会談した。新華社によると、王氏は会談で、国軍の「国家への積極的な貢献」に支持を伝えた。
 真偽は不明だが、国軍はクーデターを中国側に事前通知していたとの臆測も流れる。ミャンマーが国際的に孤立すれば、再び中国依存が高まるのは必至だ。しかし表立って動けば国際社会からの批判の矢面に立たされかねず、中国の静観は当面続きそうだ。

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