平野啓一郎さんに聞く(動画あり) AI時代の人間を問う

2019年9月6日 02時00分

◆生きることの尊さ追究

平野啓一郎さん

 小説家平野啓一郎さん(44)の朝刊連載小説「本心」が六日、始まった。仮想空間をつくる技術が進歩した近未来の社会を舞台に、人間の心について考える物語だ。作者の平野さんに聞いた。
 小説の主人公は「リアル・アバター」という職業を持つ青年。特殊な装置を着けて依頼者の「分身」として外出し、疑似体験を引き受ける。母子家庭で育った主人公は、愛する母親を亡くした後、仮想空間内に再現した母親のバーチャル・フィギュアと会話を重ねていく。
 「テクノロジーが非常に速いテンポで進歩し、AI(人工知能)やバーチャルリアリティー(仮想現実)が日常生活に深く関わってくることが予想されます。その中で人間の心や死生観にどんな変化が生まれるのかを、文学的に追究したい。それは『人間とは何か』という問いに直結します」
 「安楽死」もテーマの一つになる。「オランダ、スイスなどで安楽死の合法化・制度化が進んでいて、日本でも早晩、議論になってくると思います。『いつまでも長生きすべきではない』という社会の無意識的な強制があった時、僕たちは人生の終わりに対して自由意思に基づく自己決定権を持てるのか。決断をしたときの『本心』はどこにあったのか。それは小説のテーマと重なり合います」
 「生産性」などを尺度に、人間の命に対する危険な考え方が広がりつつある中で、「人間は生きているだけで非常に尊い存在だと力強く肯定する思想を、いかに持ちうるか考えたい」という。
 人間は分けられない「個人」ではなく、対人関係ごとの「分人」として生きているという「分人主義」を、現代人の新しい可能性を切り開く人間観として、作品を通じて唱えてきた。本作でも仮想空間での「分人」という要素を含め、その思想をさらに深めていく。
 京都大在学中の一九九九年、中世キリスト教世界を描いたデビュー作「日蝕」で芥川賞を受賞。その後もさまざまな手法・文体を駆使した作品を発表してきた。「今回は主人公の内面を語っていくため、長編としては『日蝕』以来の一人称小説になります。それも楽しみです」。ベストセラーとなった恋愛小説『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞)は、福山雅治さんと石田ゆり子さん共演の映画が十一月に公開される。
 「読者に毎日読んでもらうために、シンプルで力強い軌跡を描く物語にして、掘り下げると深いテーマがある積層的なデザインを意識します。殺伐としたニュースも多いですが、連載小説を読んで心を休めてもらえればと思います」
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挿絵を担当する菅実花さん

 「本心」の挿絵は先端的なアート作品で注目されている美術作家の菅実花さん(30)が担当します。菅さんは、十歳から二十歳まで名古屋市で育ちました。
 「本心」は平野さんの希望により、十日から中日新聞ホームページにも、紙面から四日遅れで掲載します。読者向け会員サイト「中日プラス」では、紙面掲載と同時に掲載します。いずれもバックナンバーも読むことができます。作品の感想などを平野さんに送ることができるメールレターの登録は、平野さんの公式サイトから。(石井敬)

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