森喜朗氏に政界・スポーツ界なぜ弱腰 女性蔑視発言にも党内「大先輩に注文は…」

2021年2月9日 06時00分
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)の女性蔑視発言への世論の怒りが高まっても、組織委幹部は慰留し、政権内からも辞任を求める声が起きない。発言は問題だと認めながら、なぜ森氏を「余人をもって代えがたい」(自民党の世耕弘成参院幹事長)というのか。(生島章弘、森合正範)

記者会見する東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長=4日、東京都中央区で

◆首相退陣後に存在感

 衆院当選14回を重ねた森氏は2012年の衆院選に立候補せず、政界を引退して10年近くたつ。だが、かつて自らが率いた自民党の派閥「清和政策研究会(清和研)」を中心に、なお影響力を保持。森氏発言に苦言は出ても辞任論が広がらないことに、自民党内からは「政界を引っ張ってきた大先輩に注文をつけるのは簡単ではない」(中堅)との声が上がる。
 森氏は国会議員時代、自民党で幹事長、政調会長、総務会長の三役すべてを歴任し、00年4月に首相に就任。当時から失言癖が指摘され、在任は1年ほどだったが、むしろ退陣後に存在感を発揮した。森氏以降、清和研出身の首相が小泉純一郎氏、安倍晋三氏、福田康夫氏と3人誕生し、在任期間が合わせて15年以上に及んだからだ。
 当初は最大派閥の会長として小泉氏の「後見役」を演じ、人脈を生かして党内ににらみを利かせ、政権を支えた。第二次安倍政権の発足時は国会議員でなくなっていたが、組織委会長を引き受けたり、北方領土問題を巡って旧知のロシアのプーチン大統領と面会を重ねたりした。旧文部相を務めた文教族としての立場も健在だ。
 かつて都内に所有していた自宅を手放したのは、派閥所属議員を支援する資金を確保するためだったともされ「面倒見の良さ」を印象づけるエピソードとして語られる。森氏の会長続投を支持する菅内閣の萩生田光一文部科学相や橋本聖子五輪相も清和研所属で、若手時代から目をかけていた。
 自民党の閣僚経験者は森氏続投について「調整力や人脈がすごいというのはある。これまでの功績もあるだろう」と指摘した。

◆招致貢献「調整力ある」

 スポーツ界の反応も鈍い。日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は5日に「いろんな意見があるのは分かっていますけど、最後まで全うしていただきたい」と述べた。
 日本のスポーツ界で森氏は絶大な影響力を持つ。「だって、元首相ですよ。実績もある。そんな方に何か言えますか」。20年以上親交のあるJOC評議員はそう言った。2005年から首相経験者として初めて日本体育協会(現日本スポーツ協会)会長に就き、3期6年務めた。日本ラグビー協会の会長としては、19年のラグビー・ワールドカップ日本大会の招致に成功し、「森さんがいたから」の声は多い。
 東京五輪・パラリンピックの招致では、先頭に立った。16年の五輪の招致に失敗して20年の招致に後ろ向きな当時の石原慎太郎知事を説得。招致活動では広い人脈を駆使し、スポーツ界だけでなく政官財の各界をつないだ「オールジャパン」の態勢をつくった。独自ルートで海外のロビー活動も繰り広げ、東京への支持を取り付けた。
 JOCの元幹部は「スポーツへの情熱があり、選手や周囲への気配りもすごい」と語り、「山下さん、橋本五輪相、(スポーツ庁の)室伏広治長官もみんな森さんの傘の下にいる。親分肌に見えるが、調整力にもたけている」と明かす。
 森氏と交流のある競技団体の幹部は「あの発言は許されないと思う」と憤る。一方で、コロナ禍が続く中での聖火リレー、観客の有無、大会の簡素化など難題が控える。引き続き政官財の各界、地方自治体、スポーツ界、国際オリンピック委員会(IOC)との連携が欠かせない。「森さん以外、他に誰が顔が利くのか。人材が見当たらず、スポーツ界から『辞めろ』とは言えないのがつらい」

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