「時計坂」の奇跡 土屋武之さん

2021年2月9日 07時00分
 2009年8月1日、西武池袋線の東久留米駅で奇跡が起こった。まるでそこが「時計坂駅」であるかのように、1日だけ駅の名を変えたのだった=写真。
 「めぞん一刻」のストーリーが繰り広げられた「時計坂」のモデルは、東久留米市であるとされる。駅の北口も、出会いと恋の舞台として何度も登場した。人生を決める試験の前夜。豪雨の中、いきがかり上であったにせよ、酒に酔って最終電車で帰ってきた主人公・五代君の頬を、ヒロイン響子さんが本気で怒って張り飛ばしたのは、まぎれもなく、この駅前だ。
 駅名標が掛け替えられた理由は、老朽化により解体される木造駅舎を惜しんでのこと。これもしばしば作品の背景として描かれた駅前商店街が主催した、お別れイベントの一環として、当時としては思い切った「改称」を西武鉄道が受け入れたのであった。昭和の末、おんぼろアパート一刻館で展開された、甘く、ほろ苦い青春物語は、この日、一つの区切りを迎えたのである。
 16年11月から4年あまり連載した「鉄学しましょ」の私の担当回はこれが最後。若き日の思い出の作品で締めくくります。ありがとうございました。

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