救急車の「ピーポーピーポー」、聞こえますか? 音量基準半世紀同じ でも社会は変化

2020年2月27日 02時00分

サイレンを鳴らして緊急走行する救急車=浜松市東区で(一部画像処理)

 「救急車のサイレンが昔よりも聞き取りづらくなった」。取材班にそんな声が寄せられた。日本ではおなじみのピーポー音だが、調べてみると音量には基準があり、半世紀以上、変わっていないことが分かった。運転中などに聞き取りづらくなった、というのはただの気のせい…ではなく、実は変わっていないからこそ、聞こえ方が変わっていた。 (鈴木凜平)
 「サイレンの音量の基準の見直しが必要だ」。こう訴える昨年の論文を救急医療の学会誌で見つけた。執筆したのは、島根県内の消防本部で救急救命士として働いた経験がある広島国際大保健医療学部教授の安田康晴さん(56)。「昔と今では、自動車の事情が違うのではないか」。そんな素朴な疑問が出発点だったという。
 救急車など緊急自動車に付けるサイレンの音量は、一九五一年に定められた「保安基準」に基づく。救急車の二十メートル前方の屋外で測定して「九〇~一二〇デシベル」だが、戦後間もない頃と比べれば、車の性能も社会環境も大きく異なる。
 取材班の五十代のデスクは「若い頃、暑かったら窓を全開にしていた」と言う。ガソリン代を節約したかったそうだが、二十八歳の私には、ちょっと理解できない。今の車は燃費もいいし、運転中はオーディオで音楽を聴くことも多い。
 安田さんたちが街角で調査したところ、窓を開けて走る車は、気温に関係なく5%前後だったという。そこで安田さんたちは窓を閉めた状態で、運転席の耳元で聞こえる音量を測った。▽走行中の空調やタイヤの摩擦などの雑音(四三・八デシベル)▽オーディオの音(五四・六デシベル)▽同乗者らとの会話(六八・四デシベル)。二十メートル前方のサイレンの音量は四六・四デシベルで、雑音より大きいが、音楽を聴いたり、会話したりしていると聞き取りづらい。
 安田さんによると、最近はサイレンを鳴らすスピーカーの位置が屋根でなく、フロントバンパーの裏や隙間などに変更された救急車が増えている。音量への影響だけでなく、音がバンパーに反射して「どこから鳴っているのか分かりにくくなっている」と指摘する。
 大手メーカーの大阪サイレン製作所(京都府)に尋ねると、消防署近くの住民から「うるさい」と苦情もあり、改良を続けてきたという。担当者は「交通量の多い都会でも夜中の閑静な住宅街でも同じ音量の基準になっている。走行する地域の事情を考慮する必要がある」と語った。
 実際、サイレンを鳴らして走る救急車と乗用車の事故も少なくない。
 消防庁によると、二〇一八年に救急車が現場到着までかかった平均時間は八・七分で、二十年前より三分近く延びた。サイレンに気付かれず渋滞に巻き込まれる事例が多かったことも原因とみられ、緊急走行中の救急車がどこから来ているかをカーナビに示す先進技術の開発が進んでいる。
 安田さんは、サイレンの音質や救急車の色なども改める余地があるとして「まずは半世紀前の基準を見直すことから始めるべきだ」と話した。

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