「差別は人ごとでない」福島の聖火ランナー抗議の辞退 「走りたい」葛藤も<森会長発言>

2021年2月10日 06時00分
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)による女性蔑視発言を巡り、福島県田村市の会社役員坪倉新治さん(57)が9日、聖火ランナーの辞退を同県に伝えた。組織委はこの日、走者全員に謝罪メールを送ったが、坪倉さんは身内をかばう周囲の対応を疑問視。地元は原発事故で風評被害が残っており、「差別は人ごとではない」と抗議の意思を示した。(原田遼)

◆「黙っていることは、森さんの発言に同調」

 「スタートまで1カ月半だったから『走りたい』という葛藤もあった。でも黙っていることは、森さんの発言に同調することになる」。坪倉さんは本紙に対し、苦渋の決断を明かした。
 東日本大震災時に消防団の一員として東京電力福島第一原発事故からの住民避難に奔走し、建設コンサルタント会社では除染に携わった。

昨年1月、子どもたちからの手紙を手に聖火リレーに意気込んでいた坪倉新治さん。森会長の差別発言に抗議するため辞退を決めた=福島県田村市で

 政府が掲げる「復興五輪」に対し「避難者が全然戻ってこないのに復興といえるのか」と冷めた目で見つつも「福島が少しでも明るくなれば」と聖火ランナーに応募。地元を巡る3日目(3月27日)の走者に選ばれた。

◆「謝っているようには見えなかった」

 しかし今月3日、「女性が多い理事会は時間がかかる」などと森会長が発言。翌日に記者会見で謝罪したものの、テレビで見た坪倉さんは「謝っているようには見えなかった」。
 その後、政府や組織委からも森会長の発言を積極的に追及する姿勢は見られない。
 坪倉さん自身も「女性差別の風潮は現実的にまだ日本に残っている。これまでなら聞き流していたかもしれない」と省みる。

◆「子どもたちにも示しがつかない」

 だが、世界各国で男女の社会格差をなくす動きが進む時代だ。地元では子どもに和太鼓を教えており、「子どもたちにも示しがつかない。1人の小さな声かもしれないが、差別を許さないという意思を伝えたい」と辞退を決めた。
 組織委によると、坪倉さんの他にタレントの田村淳さんら2人が、森氏の発言を理由に聖火ランナーを辞退した。組織委はようやく9日になり、「深くおわびをする」と聖火ランナー全員にメールを送信。「人種や性別、障害の有無などの違いが認められる社会を目指し、大会を運営したい」と記した。
 坪倉さんが気になるのは、問題をうやむやにしようとする政府や組織委だ。「なぜ国内で女性蔑視発言が出てしまうのかを真面目に検証し、差別を許さないという五輪をつくってほしい」と願った。

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