20人の村役場 次々退職なぜ 都心から200キロ 島民300人の御蔵島

2019年12月25日 02時00分
 「村役場の職員が毎年、何人も辞めている。行政サービスの低下が心配なんですが…」。東京都御蔵島(みくらじま)村=写真=の住民から、こんな情報が寄せられた。調べてみると、過去10年間、毎年平均して4人ずつ退職しており、6割が入庁3年以内に辞めていた。職員20人余りの役場に、何が起きているのか-。 (小倉貞俊)
 十一月下旬、都心から二百キロ南の伊豆諸島・御蔵島を訪ねた。断崖に囲まれた円形の島には、北側の険しい傾斜地に狭い集落があり、そこにほぼ全島民の約三百人が住んでいる。村役場は二十人余りの小所帯。イルカウオッチングで知られる同島だが、今はシーズンオフで、観光客の姿もなく静かだった。
 村への情報公開請求によると、本年度までの十年間に、定年を除く自己都合の退職者は四十四人。毎年四・四人ずつ辞めている計算になる。うち五年以内に退職したのは七割、一年以内が三割にも上った。四十人が島外の出身者だった。離職までのスパンは、ここ数年で短くなっており、村は退職者が出るたび欠員募集をかけ、中途採用で穴埋めしている。離島人気からか一、二人の枠に数十人が集まるなど志願者には事欠かない。だが、村の担当者は「定着してほしいのに残念。のんびりした離島生活のイメージと現実とに、想像以上のギャップがあったのでは」と戸惑いを隠さない。
 村内でも、職員のひんぱんな入れ替わりは認識されていた。ある女性は「しょっちゅう職員の顔触れが変わる。役場に申請した書類がなかなかもらえずに問い合わせたら、引き継がれていなかった」と話す。ほかにも「予算化されたはずの事業が、人手不足を理由に始まらない」「役場の電話受付時間が短くなった」など、行政サービスの低下を不安視する声も。村議会でも、たびたび職員の退職が問題になっていたが、一向に解決されていない。
 一方、すでに島を離れていた十人近くの元職員の男女に、匿名を条件に取材に応じてもらった。退職理由を聞くと、多くが労働環境の厳しさを挙げた。いわく「職員数に比べて業務が多く、総務や企画など担当をいくつも掛け持ちさせられた」「上司からの仕事の説明が不十分で内容を理解できず、村民からの要求に応じられない」「深夜残業が続き、疲労の限界に達した」…。ある男性は「新人が辞めても募集をかければすぐに埋まるので、役場は真剣に対策せず、楽観視しているのでは」と強調した。
 十月に無投票で四選した広瀬久雄村長(72)に話を聞くと「人数の少なさに比べて業務量が多く、上に立つ職員が新人指導に手が回らない。狭い職場での人間関係の難しさもある」とし、小規模自治体の共通した課題だと説明。「村の担い手となる職員を育てるためにも、長く定着してもらえるよう手を考えていきたい」と話した。

◆ブラック職場 全国で起こり得る

断崖の前に立つ御蔵島村役場(右)。毎年のように複数の職員が退職している=東京都御蔵島村で

 過疎・離島自治体の行政に詳しい名桜大の大城渡教授(公法学)は、御蔵島村役場の状況を「異常な状況が続いている。いわゆる『ブラック職場』になっていないか、役場の職場環境の見直しが全島を挙げて急務だ」と危ぶむ。
 御蔵島だけの問題ではないという。「都市圏への一極集中や人口減少、少子高齢化が進む中、全国の過疎・離島自治体に起こり得る事例でもある」。市町村の事務は法令に基づき、人口規模にかかわらず同じ事務をこなす必要がある。一自治体の事務をこなすのに必要な人員を役場として確保できず、一人の職員が多分野の業務を過度に受け持つような事態も生じかねない、という。
 大城教授は対応策について「役場には自助努力を促しつつも、市町村を補完する役割を担う都道府県に、事務の一部代行や職員の派遣などといった方法で、現状の改善を図るよう期待するしかない」と話した。

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