心にそびえる「富士」世界中に 国内400カ所超 31メートル「ふじやま」も

2020年1月13日 02時00分

群馬県桐生市の富士山からの初日の出

 「最近知ったんですが、私の故郷の群馬県にも富士山があるんです。富士山ってどこにでもあるんですか」。浜松市内に住む主婦から、そんな疑問が取材班に届いた。いやいや、そびえたつのは静岡と山梨ですよね…と考えるのは拙速だった。調べてみると、富士と名の付く山は日本中、いや世界中にあった。 (内田淳二、酒井和人)
 二〇二〇年元旦午前七時前。東の山際からオレンジ色の太陽が一気に顔を出すと、集まった三十人ほどの人々から「おおっ」と歓声が上がった。中には手を合わせて拝む人もいる。
 真冬の富士山頂。といってもここは群馬県桐生市相生町にある標高一六〇メートルの「ふじやま」。スニーカーで登れる。いったん下山して、山頂までタイムを計ってみたら三分半でたどり着いた。ふもとの上毛電鉄「富士山下駅」に勘違いした外国人旅行客が訪れることもあり、同社はホームページに英語の注意文を掲載している。
 愛知県の三河湾に浮かぶ佐久島(西尾市)にも「富士山」がある。こちらも「ふじやま」と読む。標高は三一メートルで、人工の山を除けばおそらく日本一低い「富士」だ。どちらの山頂にも富士山信仰を伝える浅間(せんげん)神社があり、「本家」の富士山とつながっている。
 富士は一体、いくつあるのか。日本地図センター相談役の田代博さん(69)は「富士は昔から、あやかりたい存在で、いわゆる『ふるさと富士』は各地にある。○○富士と通称で呼ばれているものも含めれば、四百以上」と解説する。
 有名なのは、薩摩(さつま)富士(開聞岳・鹿児島県)や蝦夷(えぞ)富士(羊蹄山(ようていざん)・北海道)。円すいで、形が似ているものが多い。田代さんは「海外にも六十ほどある」と付け加える。「富士は離れれば離れるほど、望郷の念をかきたてる。背景には日本の歴史も絡んできます」
 地球の裏側、ブラジル・レジストロ市。ボトゥポカ山(四一六メートル)は、近くの川の名前から「リベイラ富士」とも呼ばれてきた。名付けたのは、百年前に海を渡った日系移民たちだ。

リベイラ富士=ブラジル・レジストロ市で(2018年撮影、福沢一興さん提供)

 戦後に埼玉県から十三歳で親と渡航し、今も山の近くに住む福沢一興さん(79)は、その名を知った日のことを今もよく覚えている。茶摘みを手伝っているとき、「見よ東海の空明けて」と戦前の唱歌を口ずさんでいた五十代の女性が教えてくれた。歌は「そびゆる富士の姿こそ」と続く。
 レジストロは日系人が一から切り開き、茶栽培も始めた。「最初は、あんなちっちゃいのが富士か、って思いましたけどね。でも、初期の移民たちには日本を思い出すシンボルでした」
 福沢さんも農業を営みながら長年、眺めているうちに愛着が湧いてきた。一年中、緑が濃く季節感はあまりない。でも、天気が悪くて姿が見えないとがっかりし、よく見える日はうれしくて「写真でも撮ろうかな」と思う。「街から戻ってきてリベイラ富士が見えると、帰ってきたな、と感じる。いつ見てもいい」
 人々を魅了し、魂の中にそびえたつ山。取材班として認定したい。富士はにっぽんいちの、いや世界いちの山である-。

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