<炎上考>表現ににじむ無意識の価値観に要注意 吉良智子

2021年2月10日 11時00分

埼玉県が作成した「男女共同参画の視点から考える表現ガイド」からの表紙イラスト(抜粋)

 まずはこのイラストを見てほしい。このイラストに出てくる「赤ちゃんをスリングで抱っこする男性」「作業着の女性」「医師とおぼしき女性」「ピンクのエプロンを着けた男性」に違和感を持った方は要注意。炎上の素質ありだ。
 言葉を介さない表現は、それを生み出した人間の持つ無意識の価値観が簡単ににじみ出てしまう。「子どもを育てるのは女性」「外で働くのは男性」という固定観念を持っていないだろうか。
 ツイッターやユーチューブなどのネットを利用した、企業や団体による広報物でいわゆる「炎上」が続いている。「炎上」とは特定の広報物に対して多くの人々から「物言い」が殺到することである。最近の傾向を見ると、母親だけが育児をするCMや女性の見た目を笑いものにする表現などに対して炎上が繰り返されているようである。 
 私が大学などで美術史やイメージ分析の授業をするなかで、学生に炎上の実例を紹介すると、「げんなりする」「気持ちが悪い」「女をなめている」「炎上企業の商品は買う気がしない」と率直な感想が次々と寄せられる。コンテンツは本来ならばそれを発信する側が客層に向けて最も伝えたいメッセージが詰まっている。企業ならなおさら消費者が文句を言いたくなるものは作りたくないはずだ。にもかかわらず炎上してしまったとしたら、作り手側が意識をアップデートできていないからである。
 そうした企業や団体は往々にして管理職が中高年男性ばかりで多様性に欠ける場合が多い。はっきり言って時代遅れだ。私は今40代で、自分が20代だったころは、腹の立つ表現があっても「仕方がない」「笑顔でやりすごすのが賢い女」という声が大勢だった。その裏には「言っても変わらない」という諦念があったと思う。だが今、若い世代は不当な扱いには異議を唱えるし、それがカッコイイと劇的に変化している。
 「そうはいっても、いったいどういう表現が炎上するのかさっぱり分からない」という方向けに、このコラムでは過去に炎上した例を取り上げて、その表現の何が問題なのか、その表現が意図せず発信しているメッセージは何なのか、そしてときには好例を紹介しつつ読み解いていきたい。

 きら・ともこ 美術史・ジェンダー史研究者

(2021年1月20日東京新聞夕刊に掲載)

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