「住民のいない町」JR常磐線双葉駅のある一日 <あの日から・福島原発事故10年>

2021年2月11日 06時00分

JR常磐線双葉駅を出発する品川行き最終の特急ひたち。ホームには乗る人も、下りる人もいなかった=福島県双葉町で(潟沼義樹撮影)

 東京電力福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)から4キロの場所に、JR常磐線双葉駅がある。新しい駅舎に隣接する旧駅舎の時計の針は「2時47分」を指したまま、10年前の地震直後から動かないのだろう。昨年3月に駅周辺や沿岸部の一部で、許可証なしの立ち入りが可能になったものの、インフラ整備の遅れで町民が生活できるのはまだ先。今月5日、「住民のいない町」の一日を玄関口である駅で追った。(潟沼義樹、写真も)
 5時56分 東の空にわずかな赤みが差す。いわき(福島県いわき市)行きの上り一番電車に乗降客はいない。無人の改札で、空間線量計のデジタル数字が赤く光る。

昨年3月のJR常磐線運転再開に合わせて建て替えられた双葉駅

 7時5分 原ノ町(南相馬市)行きの下り普通電車から、沿岸部にできた町産業交流センターに入る企業で働く神田秀一さん(53)=楢葉町=が同僚と降りた。「車の方が便利だけど、双葉町で働く人間としてせっかく復旧した交通機関を使いたいので」。町のシャトルバスに乗り込んだ。運賃は当面無料だ。
 8時20分 「電車は風が吹くとすぐ遅れちゃうから、みんな車だよ。駅は立派なんだけどな」。シャトルバス運転手の奥田邦勇さん(72)がぽつり。20分ほど待つも、無人で出発した。

双葉駅前から、町産業交流センターと東日本大震災・原子力災害伝承館を結ぶ無料のシャトルバス

 12時14分 いわき行き普通電車から降りたのは、福島県二本松市の高校3年、服部杏菜さん(18)。新型コロナウイルスの影響で授業がなく、産業交流センターに隣接する東日本大震災・原子力災害伝承館を見学に来た。「原発事故のことをもっと知りたいと思って。町も見たいので歩いて向かいます」
 13時10分 原ノ町行き普通電車が到着。東京から来た松浦隆さん(62)が下車。双葉町育ちで、伝承館に行くという。「うわー。本当久々だなあ」。駅前で旧友とばったり再会し、声を上げた。「車で送るっぺよ。とりあえず飯でも食うか」と友人の声も弾んでいた。

双葉駅の近くに残る被災店舗。周辺では家屋の解体や除染作業が進む

 14時24分 いわき行き普通電車が到着。改札からは誰も出てこない。近くで線量計の貸し出しに当たる60代女性は「今年に入って人が来なくなっちゃった。コロナのせいかしらね」。
 16時 駅前で舗装工事をしていた作業員らが仕事を終え、人けがなくなった。

夕方も利用客のまばらな双葉駅のホーム

 20時18分 伝承館職員の渡辺薫さん(54)=浪江町=が原ノ町行き普通電車に乗り込む。埼玉県で郵便局員をしていたが、両親の故郷の東北で何かできることはないかと、震災の3年後に宮城県に一時移住し、その後、福島県に移った。「東北が好きなんですよね。東北の人の素朴さにひかれるんです」
 21時15分 最終の普通原ノ町行きに、乗降客はいなかった。赤いテールライトがホームから遠ざかり、真っ暗な町に吸い込まれた。

双葉駅 福島県双葉町にあるJR常磐線の駅。震災前の平均乗車客は1日550人程度。現在、上野発と品川発の下り3本と、品川行きの上り3本の特急ひたちが停車する。町の大半は帰還困難区域のまま。2022年春に駅周辺の特定復興再生拠点区域で避難指示解除が見込まれ、人が暮らせるよう整備が進む。


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