園児用バスにシートベルト必要 事故経験の保育士「大けが防げたかも」

2019年5月10日 02時00分

事故が起きた交差点。直進していた通園バスに右方向から来た軽乗用車がぶつかり、園児11人と保育士が負傷した=埼玉県北部で

 乗り合いバスの車内で高齢者らが転んでけがをする事故の多さを昨年9月から今年1月にかけての不定期連載で紹介したところ、幼稚園関係者らから「通園バスにシートベルトが必要」との意見が寄せられた。シートベルトがあれば園児の大けがを防げたかもしれない交通事故も、実際に起きている。 (石原真樹)
 「子どもたちがみんな泣き、パニックだった。とにかく助けなきゃと必死だった」。女性保育士は通園バスの横転事故を振り返り、涙をぬぐった。「今でも思い出すとつらくて」
 事故は二〇一六年秋の午前八時ごろ、埼玉県北部で起きた。定員二十二人のバスに、三~六歳の園児十一人とこの女性保育士、運転手が乗車。見通しのよい十字路で、軽乗用車がバスの運転席側後方に衝突した。
 バスは助手席側が下になる形で横転。助手席側の窓ガラスは割れ、園児たちは座席から転がり落ちた。ガラスが腰や足の裏に刺さったり、割れた窓の隙間から脚が外に飛び出たり。女性保育士は、近所の人と後部の非常用扉から園児たちを助け出した。救急車三台で搬送され、腰にガラス片が刺さった子は手術を受けた。園児全員と女性保育士が負傷したという。
 この保育園は一五年に通園バスを購入した際、メーカーにシートベルトをつけてほしいと要望していた。ところが「ベルトはない」と断られたという。「シートベルトがあれば体が飛ばされず、けがは打撲で済んだかもしれない」と女性保育士。男性園長も「命が助かったのは不幸中の幸い。シートベルトは必要だ」と言葉に力を込めた。
 なぜ、通園バスなどの「幼児専用車」にはシートベルトがないのか。
 国土交通省が一三年にまとめたガイドラインでは「幼児はベルトを外すのが難しく、緊急時の脱出が困難」と指摘。幼児は年齢により体格がさまざまで、ベルトの高さなどの設定が難しいことも理由に挙げる。
 その結果、メーカーはベルト付きの通園バスを製造していない。国の安全基準がなく、大手のトヨタ自動車や日産自動車、三菱ふそうトラック・バスは取材に、「オプションとしての装備もできない」と説明した。
 一方で、日本自動車研究所は一七年、三~五歳児は成人用のシートベルトでも着脱に時間はかからないとの研究結果を公表。一部の保育所では、取り外しが容易な簡易ベルトを独自に取り付ける動きがある。

◆通園バスベルトなくても安全?

 通園バスなどの幼児専用車にシートベルトがなくても安全なのか。国土交通省はベルトを義務化しない理由の一つに、黄色い三角形の「幼児バス」マークで周囲の車に注意を促していることを挙げる。だが本紙には、マークがあっても「ライトやクラクションであおられる」との声も寄せられた。 (石原真樹)
 横浜市にある幼稚園の園長は「子どもの命を預かる身としての悩み」を本紙に寄せた。通園バスに園児を乗せるため、待機場所にバスを寄せようとすると「時間がかかると思うのか、ライトやクラクションであおる車が多い。大きな事故が起きなければいいなと危惧している」と困惑気味。
 都内の三十代母親は、子どもの通う幼稚園が通園バスで、高速道路を使って遠方まで宿泊保育に行った時に「不安を感じた」と明かす。「バスの運転手がいくら気を付けても、もらい事故で大惨事になる可能性はある。通園バスにもシートベルトがほしいですね」
 実は、国交省も一一~一二年度、幼児専用車のベルト義務化を検討したことがある。その際のデータでは〇三~〇八年の年平均で、六歳以下の九十四人がけがをし、重傷は六年間で四人、死者はいなかった。〇八年は幼児専用車千台あたりの負傷率が三・六人で、一般のバスと比べて十分の一だった。
 こうした数値から「幼児専用車の死亡、重傷事故は極めて少ない」と結論。事故時に頭への衝撃を和らげる緩衝材を座席の後面に取り付けると決めたが、ベルトの義務化は見送った。幼児バスのマークによってほかの車に注意喚起でき、幼児はベルトの着脱が難しい、なども理由に挙げた。
 一方で、日本自動車研究所は一七年、一般的な成人用のシートベルトでも、三~五歳児は自分で着脱できるとの研究結果を公表。ベルトの有無で子どもがバスから降りる時間にほとんど違いはなかったと結論づけた。
 横浜市の小児科医で、子どものけが予防活動に取り組むNPO法人「Safe Kids Japan」の山中龍宏理事長は「死者がいないから、重傷が少ないからといって、防げる事故を防がないのはおかしい」と疑問を投げ掛けた。

◆独自に導入の例も

ヒーローバスの座席に装備されているベルト=東京・目黒区役所で

 通園バスの安全性を高めようと、特注のベルトを装備するケースもある。東京都目黒区は、園庭がない保育所の園児を公園に送迎するため、昨年11月に導入した幼児専用車「ヒーローバス」に簡易ベルトを付けた。2年前に保護者から要望されたのが導入のきっかけだ。
 この簡易ベルトは布製で、2本の両面(長さ30センチ、幅4センチ)を接着して腰の部分を固定する。2人がけの座席に1組ずつあり、2人で一緒に使っている。道路交通法が定める一般的なシートベルトではない。
 国交省のガイドラインでは、こうした簡易ベルトは「衝突時に幼児を十分に拘束できない可能性が高いため、安全性向上にはつながらない場合がある」と指摘。
 同区の担当者は「子どもが何かに興味をひかれて立ち上がったりすると危ないので『ちゃんと座ろう』との意識付けの意味が大きい。安全のためにできることをした」と話した。
<幼児専用車> 幼稚園や保育園の送迎などに使われる子ども専用のバス。座席や乗降口の寸法などが道路運送車両法の保安基準で定められ、車両に「幼児バス」などと書かれた黄色い三角形のマークを付ける。台数は全国で約1万7800台。
 この記事が掲載されるまでの取材日記を子育てサイト「東京すくすく」で読むことができます。

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