スポーツ界も変革の時 縦社会脱却し声上げる日本のアスリート 森氏の女性蔑視発言に「NO」

2021年2月12日 06時00分
 女性蔑視発言で批判を受けていた東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が辞任することになった。国内の現役選手の一部は発言に抗議の声を上げ、意思表示に消極的だった従来のアスリートの姿は変わりつつある。
 リオデジャネイロ五輪競泳男子400メートル個人メドレー金メダリストの萩野公介(ブリヂストン)は10日、音声配信サービスで「非常に残念、がっかりした」と批判。「そういう発言をする思考回路に行き着くのが僕はちょっと信じられない」と断じた。
 同じ競泳男子で4度目の五輪を目指す入江陵介(イトマン東進)も5日、レース後の取材で「残念」と話している。男子選手が自分たちの問題として捉え、抗議の意を表したのは印象的だった。
 女子では競泳の鈴木聡美(ミキハウス)が「かなり残念。正直、怒りもありました」と率直に思いを語り、陸上女子の寺田明日香(パソナグループ)も「憤りもあるが、なぜそういう考えになるのか不思議」と吐露した。

6日、全豪オープンテニスの開催地メルボルンで記者会見する大坂なおみ選手=Tennis Australia・共同

 米国で端を発し、世界中に広がった黒人差別解消を訴える運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命も大事だ)」で見えたように、海外のスポーツ界では競技以外の事柄について意見をはっきり言う。BLMでその言動が注目を浴びた米国育ちの大坂なおみ(日清食品)は、森会長の発言にも「情報不足で少し無知な発言」と意見を述べている。だが、日本のスポーツ界はいまだ体育会系の縦社会がはびこり、目上の人に対して意見をしづらい風潮がある。ましてや、五輪の話題となればスポンサーも絡み、デリケートな話題だ。
 新型コロナウイルス禍で東京大会の開催に懐疑論が広がる中、取材現場では主催者側から事前に「競技以外の質問はご遠慮ください」と通達されることも少なくない。今回、声を上げた選手たちからは、自分の意見を伝えなくてはならないという強い意志が感じられた。
 くしくも萩野は「アスリートが一番スポーツの価値というものを考えていかないといけない」と述べ、「アスリートが素晴らしい人間であればあるほどスポーツの価値が高まっていく」と強調する。
 競技会に出場し、好成績を残せばいいのか。多くの人に共感され、応援してもらうためには。選手はどうすればスポーツが社会に還元できるのかを自問自答している。日本のアスリートは今、変革のときを迎えているのではないだろうか。(森合正範、磯部旭弘)

◆常に「多様性」意識、スポーツの価値高めたい<競泳・萩野>

 萩野は音声配信サービスで「『アスリートが発信していくのは酷だ』みたいな発言が(日本オリンピック委員会の)山下会長からあったと思うが、今回はその件についてお話ししたい」と、現役選手では異例の見解表明をした意図を説明した。

競泳ジャパンオープンでメダルを手にする萩野公介=6日、東京アクアティクスセンターで

 多様性を訴える東京大会のポスターを初めて見た際に「素晴らしい大会になるだろう。目指しているアスリートの一人として、そういうことを意識してやっていきたいと思った」と強調。競泳は普段から男女で一緒に練習に取り組むだけに「女性だから、男性だからという考えは持ったことがない」と語った。亭主関白など古いしきたりの残る日本文化にも触れ、「一概に言えないが、ご年配の方に近づくとそういう発言が多くなってしまうのかな」と述べた。
 スポーツの価値観やアスリートの在り方についても「一人のアスリートである前に一人の人間。アスリートが素晴らしい人間であればあるほど、スポーツの価値ももっと高まっていく」と触れた。

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