絶滅危惧個人商店 井上理津子著

2021年2月14日 07時00分

◆地域密着の経験と矜恃
[評]木村晃(サンブックス浜田山店長)

 あそこにあった店ってなんだっけ? いつの間にか個人商店が消えてチェーン店に変わっている。という経験が皆さんにもあるだろう。そんな光景に寂寥(せきりょう)感を募らせる著者が「個人商店が『絶滅の危機に瀕(ひん)している』という思いに駆られたこと」をきっかけに本書の企画が始まった。
 東京を中心に「営業歴が長そうで、なんだか味があり、街に溶け込んでいると推察する個人商店」十九店を取材。その様子を軽妙な語り口で綴(つづ)っている。中村章伯氏が描く店の日常風景を切り取ったイラストと相まって、店主の人柄、その店が醸し出す温かい雰囲気が伝わってくる。
 雑談を交えながらの店主との会話からは、店主や店の生い立ちとともに、長年の経験で酸いも甘いも噛(か)み分けた人だからこその言葉に専門家としての矜持(きょうじ)が垣間見える。お客さんとの親しげなやりとりでは、地域の人々の交流の場となっている様子が窺(うかが)える。
 スーパーやチェーン店の台頭の他にもさまざまな要因があるだろうが、商店街から個人商店が消えている、または消えつつある。豆腐屋、文具屋、駄菓子屋、本屋、魚屋、八百屋など例を挙げればキリがないが昔の商店街には必ずあった。
 確かにスーパーやチェーン店は品数が豊富で便利だ。私もその便利さを多用しているのは否めないが、読了後、個人商店への見方が変わった。なぜなら、地域に根ざした専門店として、長年営業を続けている強みがある。その経験や知識に裏打ちされたアドバイスは一朝一夕に出来るものではないだろう。細やかな相談にも親身になって応えてくれるのもありがたい。
 どんな店にも、それぞれの歴史があり、それぞれの思いがあり、さまざまなことを抱えながら今なお営業を続けている。そこには表面からでは窺い知れないドラマがある。
 まだまだ、各地で頑張っている個人商店はたくさんある。ぜひ本書を読んで自分の街の商店街を散策してほしい。きっと、今まで何げなく通り過ぎていた店が気になるはずだ。
(筑摩書房・1650円)
1955年生まれ。フリーライター。著書『さいごの色街 飛田』など。

◆もう1冊

山之内遼著『47都道府県の純喫茶 愛すべき110軒の記録と記憶』(実業之日本社)

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