<ふくしまの10年・詩が生まれるとき>(15)祈り許された気がした

2021年2月13日 07時38分
 震災後、和合亮一さん(52)は、最後まで避難を呼び掛け津波で亡くなった宮城県南三陸町の職員、遠藤未希さん=当時(24)=の両親が、津波が押し寄せてきた時の映像を見ているニュースを見た。黒い波が押し寄せる中、防災無線で避難を促す声を聞き、お母さんが「まだ言っている、まだ言っている」とぽろぽろ泣いていた。多くの命を救った彼女の声を聞いた後、和合さんは南三陸を訪れた。
 二〇一一年十二月六日は、オーケストラが演奏する大阪のホールと中継をつなぎ、多くの職員が津波で亡くなった南三陸の防災対策庁舎前で、和合さんは「詩ノ黙礼」を朗読することになっていた。
 「南三陸。黒い波があらゆるものを奪っても、女性は必死になって、呼び掛けた。『高台へ、高台へ』……」
 吹きすさぶ風の中で、和合さんは声を張り上げたが、声をかき消すほどの強い風雨。天気は何かに怒っているかのように荒れていた。予行演習はうまくいかなかった。失敗を重ねるにつれ、無力感に襲われた。自分の祈りは許されないのではないか。何もかも空虚に感じた。十三回の失敗。だが読み通してやると臨んだ本番は、初めてオーケストラと最後まで共演できた。
 朗読しながら感情が込み上げてくるのをこらえた。読み切った後、祈りを許された気がした。指揮者が泣いていた。
 原発も震災も問題は解決していない。自分たちが取り残されていると感じる。小さな力かもしれない。でも祈りをやめない。和合さんは決意した。 =おわり
 (片山夏子が担当しました)
 ◆16日から新シリーズを始めます。
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