エジプト革命10年「強制失踪」相次ぐ テロ理由に2700人超 広がる恐怖

2021年2月13日 09時04分
 民主化運動「アラブの春」で約30年にわたるムバラク独裁政権が倒れたエジプト革命から、11日で10年がたった。革命後は初の自由選挙で文民政権が誕生したものの、2013年のクーデターで再び軍事政権に。革命の再発を懸念するシシ政権は、テロ対策を理由に強権統治を推進。市民がある日突然連行される「強制失踪」事案が深刻化している。(カイロ・蜘手美鶴、写真も)

◆「どこにいるか教えて」テロに無縁、15歳の子どもが

 カイロ市内の貧困地区。4畳半ほどの小さな店内で、美容師ムハンマド・アブドゥさん(62)が財布から次男フサインさんの写真を取り出した。失踪当時は15歳。「テロとも政治とも無縁の子どもだ。どこにいるのか誰か教えてほしい」

カイロ市内で4日、約2年前に消息を絶った息子フサインさんの写真を持つアブドゥさん

 次男は18年11月、バイトに行く途中で消息を絶った。警察は取り合ってくれず、2カ月後、200キロ離れた町で携帯電話だけ見つかった。必死に行方を捜す中、弁護士につてがある常連客が「刑務所にいるらしい」と教えてくれた。内務省に問い合わせたが「該当者なし」の回答。ただ、他の弁護士や元服役者の情報などから、当局に拘束されていることは間違いないとみられる。
 次男はサッカー好きだった。エジプトのサッカーファンは強い組織力を持ち、反政府デモへ動員をかけることもあった。ナダ・サアダ弁護士(33)は「サッカーとの関連で疑われた可能性はある」と指摘する。

◆100件近い捜索依頼を受ける弁護士

 強制失踪は13年以降、「圧倒的な勢い」(人権団体)で増えている。非政府組織(NGO)「権利と自由のためのエジプト委員会」(ECRF)によると、過去5年間で少なくとも2723人が失踪。この数も「実態の10~15%」という。
 ある男性弁護士(50)はこれまで100件近くの捜索依頼を受け、内務省に問い合わせを続けるが、「回答が来て拘束場所が分かる人はまだいい方だ」と明かす。

2011年2月、エジプト・カイロのタハリール広場で、ムバラク大統領辞任を喜ぶ人たち=共同

 大衆による民主化運動が軍事政権を倒したエジプト革命は、軍に「運動が再発する余地を与えてはいけない」との教訓を与えた。シシ政権は、初の自由選挙で政権を握ったイスラム主義組織「ムスリム同胞団」をテロ組織に指定し、取り締まりを理由に根こそぎ拘束。その後政権を批判する若者や活動家、ジャーナリストなどへ対象を広げ、今は普通の市民にも影響が及ぶ。

◆路上で職務質問され拘束「革命前より悪い」

 元活動家アラ・アバッシさん(37)は昨年9月、路上で警察に職務質問され、そのまま拘束された。テロ事案を扱う国家安全保障局で調べられ、裁判もなく刑務所に送られた。3カ月後に釈放されたが、またいつ拘束されるか恐ろしく「状況は革命前より悪い。昔も取り締まりはあったが、今は暴力的だ」と話す。
 国際社会の批判をよそに、政府は強気の姿勢を崩さない。シュクリ外相は今年1月、記者会見でドイツ人記者から人権問題の改善を問われると、こう言い放った。「(批判する人は)実際にエジプトに来て普通の人から話を聞くといい。人権問題は存在しないと気づくだろう」

 強制失踪 国の治安機関などによって突然連行され、行方が分からなくなる事案。2010年に発効した「強制失踪条約」はこうした行為を犯罪と定義し、処罰する枠組みを定めた。独裁政権下で多く報告され、拷問などを受けて精神疾患を患うケースが多い。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によるとシリアやエジプトなどのほか、メキシコやジンバブエ、ラオスなど30カ国以上で起きている。

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