森発言を批判した米国のボイコフ教授「嫌悪感を抱いた」 <一問一答>

2021年2月14日 06時00分
 ジュールズ・ボイコフ教授(50)とのインタビューは、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って実施した。主な一問一答は次の通り。

ジュールズ・ボイコフ教授

◆「21世紀の行動規範に全く一致しない」

Q 森喜朗氏(83)が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと発言した時の第一印象は。
 まず嫌悪感を抱いた。スポーツの世界では、当然そのような露骨な性差別の余地はないし、性の平等について今後どう考えていこうかといった21世紀の行動規範に全く一致しない。
 ショックを受けたが、これまでの森氏の失言の歴史や、五輪がこれまで、性差別主義者に対して何の反論もしないで、差別を広く受け入れる余地を与えてきたことを考えると、それほど驚かなかった。
 NBCへの寄稿にも書いたが、性差別は決して古くはない。数年前まで国際オリンピック委員会(IOC)の中では、女性は(子宮に悪い影響を与えるから)スキーでジャンプ競技をすべきではない、という人の意見がまかり通っていた。森氏の発言は衝撃的ではあったが、五輪が性差別に断固たる措置を取らないという流れの中では驚くべきことではなかった。

◆「森氏を辞任に導いたことは称賛」

Q 森氏の辞任を巡る動きをどう感じたか。
 多くの人たちが、率直に責任を認めて陳謝する代わりに、問題を避けようとしたことに不満を感じていたのではないか。抗議デモが起き、女性の国会議員が(女性参政権運動の象徴とされる)白い服装で抗議の意思を示していた。五輪ボランティアを断る人も出て、(最高位のスポンサーである)トヨタでさえ、不快感を表明した。これらの動きが森氏を辞任に導いたことは称賛に値する。

◆「組織委を男性の同窓会と考えたのでは」

Q 森氏は女性蔑視発言について「解釈の違いだ」などと釈明した。
 ワシントンで取材していたら、(政治家らによる)謝罪になっていない形だけの謝罪、というものをよく知っているだろう。それと同じで、その代償は大きい。
Q 森氏が川淵三郎・日本サッカー協会元会長(84)を当初、後任に要請したことをどう思うか。
 森氏が性差別撤廃を真剣に考えていたら、自分と同じ80代の男性を後任に指名しないだろう。男性は自分たちの利益や経験を超えたビジョンがなく、変化に向けてかじを切れない、という生来の問題を如実に示した。性の平等は、その不平等によって生じる悪弊を修正していって初めて達成できる。森氏は組織委を男性のみの同窓会(OB会)とみなしていた。これは大きな問題だ。
 そして世界中の多くの人たちが、なぜ森氏はもう少し大きな絵を描けないのだろうか、と頭をかいたと思う。後任の役割を務めることができる有能な女性は多い。
Q 結局、男女同数による候補者検討委員会の設置に落ち着いた。
 性平等はどうあるべきかという21世紀のよりよいビジョンを兼ね備えた人を選んでほしい。女性が選ばれることを期待する。一方で、東京五輪は今、多くの問題を抱えている。新型コロナウイルスの感染により、実施がかなり難しくなってきている。中止を決断した場合、極めて不公平だが、性差別社会が新しい指導者に責任を背負わせるのは容易に想像できる。

◆「IOCこそ不平等の改善を」

Q IOCの一連の対応をどう評価するか。
 森氏が当初、発言を撤回した際、IOCが『問題は終わった』と述べた。その後「完全に不適切』と指摘したのは、日本や世界で市民社会やメディアから反発が広がってからだ。
 対応が後手に回ったのは、IOC自身が長く、性差別にドップリつかっていたからだ。女性が初めてIOC委員に選ばれたのは1981年。今でも女性の委員は全体の約三分の一にすぎない。IOCの方こそ、性の不平等を改善すべきことは多い。
Q 米国の組織委の状況はどうか。
 女性が指導的役割を果たしているか、という点では日本よりも進んでいる。その点前向きに評価はできるが、模範かといえばそうではなく、改善の余地は多い。私がNBCへの寄稿で、世界経済フォーラム(WEF)が2019年に公表した男女格差を示すジェンダーギャップ指数で日本は153カ国中121位だったと同時に、米国も53位と決して高くないことを示したのはそのためだ。
Q 今回、IOCに影響力のあるNBCテレビのウェブサイトに寄稿した経緯は。
 以前からよく知っている親しい編集者がいたからだ。NBCが五輪の世界に影響力があるのは知っていたし、それも考慮したのは事実だ。だが、社の幹部など、知り合いの編集者以外の人たちとは一切接触していない。

◆「東京五輪の中止で苦しむ人たちと結束を」

Q 昨年3月、ニューヨーク・タイムズ紙に、新型コロナの感染拡大を理由に「東京五輪は中止すべきだ」と寄稿した。今も考えは変わらないか。
 変わらない。私自身、サッカーの米代表チームでプレーをしたことがあり、当時は、五輪に向けて自らに投資してきた選手のことを考えると心が痛んだが、私たちはパンデミック(世界的大流行)のさなかに生きている。
 日本の世論調査で開催に懐疑的な見方や延期を求める声は合わせて約8割を占める。もし私が日本で生活していたら、感染がひどい米国から飛行機が到着することを快く思わないだろう。米国はそれでもワクチン接種が進むが、そうでない国からの来訪者を日本人はどう思うだろうか。
 米国では、人々の周りに必ずコロナで苦しんだり、亡くなった人がいる。五輪の中止は、コロナで本当に苦しんでいる人たちと結束を示すことになり得るのではないか。

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