[ヨワイ虎の家] 愛知県西尾市 伴梨恵(58)
2021年2月14日 07時40分
◆わたしの絵本
◆300文字小説 川又千秋監修
[お汁粉] 東京都文京区・無職・66歳 諸井佐喜子
事の始まりは、いただき物の林檎(りんご)。女性ばかりの職場。皆で食べようと、おやつの時間に切りました。
交代で休憩室に来る人のため、茶色くならないように塩水につけました。
塩は持参。好評でした。
ところが、几帳面(きちょうめん)な人が残りの塩に気がついて「あら、お砂糖出しっぱなし」と砂糖壺(つぼ)に入れてしまいました。
さらに、「お砂糖と塩だったら、混ぜちゃえば大丈夫じゃない」と思う人がいて。
でも、しょっぱいお砂糖はもうコーヒーには合いませんでした。
そこで、次の日。
職場の責任者が、大鍋と小豆を持参してお汁粉を作ってくれました。
「お汁粉には隠し味でお塩を入れると美味(おい)しいのよ」
とっても沢山(たくさん)、しょっぱいお汁粉ができました。
<評> 職場の同僚に対する心づかいが、思わぬ事態に発展。お鍋が空にならなかったら、翌日は休憩室にお餅を持ち寄り、こし餡(あん)派か、つぶ餡派か、ぜんざい論議に花を咲かせることもできそうです。
[冬花火] 岐阜県各務原市・公務員・25歳 船渡淳平
大晦日(おおみそか)、大掃除をしていたら、線香花火を見つけた。今年の夏、友だちみんなで楽しむはずだったものだ。
来年の夏もみんなで花火を楽しめる保証はないと思い、今夜やってしまうことにした。
雪のちらつく夜、僕は使い捨てライターで火をつける。
ジャッ! 火がついた。
ゆれる炎に、線香花火を近づける。一瞬の静寂。
パチ、パチ、パチパチ…
儚(はかな)さの中にも芯の強さを感じさせるような燃焼。まるで、世界中に降り積もったあらゆる不安を燃やしているようだ。
花火と言えば夏というのがわが国の常識だが、そんなもの誰が決めたのだと問いたくなるほど、冬の花火も神秘的で美しい。
さて、来年はいろんな常識を疑ってみようかな。
<評> 昨年末、大晦日に投稿された作品。年が変わり、月も移りましたが、今も先の見通せない状況が続いています。こんな時代に求められているのは、新しい発想。小さな火花が、そのきっかけになるかも。
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