太宰が見ていた風景 土屋武之さん

2019年12月24日 02時00分
 まだ学生だった津島修治青年が、「太宰治」の筆名で初めて執筆した小説が「列車」だ。1933年に発表されている。舞台は、当時の東北の花形であった青森行き急行103列車が上野駅を発車する場面。牽引(けんいん)するC51形蒸気機関車のメーカーを梅鉢工場(現在の総合車両製作所のルーツの一つ)とするなど若干の難点も散見されるが、駅や列車の描写はなかなか真に迫ったものがある。なお、梅鉢工場は一般的には梅鉢鉄工所と言うが、C51を製造した事実はない。
 スハフ134273という客車も登場する。文学ファンには謎の数字だろうが、鉄道サイドから見れば、勘違いか創作上の意図かどうかはわからないが、頭の1が余計だ。スハフ34273ならば、当時の新鋭車のうちの1両。30年に、それこそ梅鉢鉄工所で完成したばかりで、仙台に配置されていた記録があり、最新型として東北線の急行に使われていた。
 現在、同型車が1両だけJR東日本の手で動態保存されている。高崎地区のSL列車などに使われるスハフ32 2357=写真=がそれ。他の客車とは異なり、小型窓が連なるクラシカルな外観をした車両だ。まさに、太宰が見ていた風景を思い浮かべるのにふさわしい。

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