けむに巻くトリック 土屋武之さん

2019年9月17日 02時00分
 1895年11月の第3週、ロンドン地下鉄オールドゲイト駅=写真=近くの線路脇で、カドガン・ウェスト青年の他殺体が見つかった。彼は兵器工廠(こうしょう)の事務官だが、ポケット内には、流出すれば国家の存立をおびやかしかねない新兵器の設計図の一部が入っていた…。シャーロック・ホームズシリーズの短編「ブルースパーティントン設計書」の事件は、このように始まる。
 ロンドンの地下鉄は1863年に最初の路線が開業した。日本で言えば文久3年。徳川14代将軍・家茂の時代である。当初は非電化で蒸気機関車が引っ張っており、換気のため、トンネルの天井の随所に開口部が作られていた。ホームズの推理によると、被害者は他の場所で殺され、そうしたところで列車の屋根上に載せられて発見地まで運ばれたのである。
 オールドゲイトを通る路線が電化されたのは、1905年のこと。事件が起こった年には、乗客はまだ煙に耐えつつ乗っていた。今も当時のまま残っている、地下鉄らしからぬ明るい日が差し込む部分にも、その頃にはまだ意味があったのである。犯人のトリックにも利用されたが、おかげで遺体も見つかりやすかったことだろう。

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