減薬しても認知機能維持 多剤併用で有害症状「ポリファーマシー」改善へ

2021年2月17日 07時22分

有料老人ホームで夕食後に利用者に薬を飲ませる介護職員。処方薬のチェックは複数の職員で行っている=東京都大田区で

 高齢者施設で暮らす約900人を1年間観察したところ、服用する薬を減らすか維持した状態を続けても認知機能や生活の質がほぼ変わらなかったことが、東京大などの共同研究で分かった。多くの薬を併用することで体に悪影響が出る「ポリファーマシー」は、特に高齢者で問題になっている。研究グループは「心身の状況を落とさず減薬できると分かった。無駄な薬剤費の削減にもつながる」としている。 (五十住和樹)
 減薬に取り組んだのは、介護事業の「らいふ」(東京)が東京、神奈川、埼玉、千葉の四都県で運営する介護付き有料老人ホームなど計三十一施設に入居する五十五〜百八歳の千六百三十四人。二〇一八年十二月から減薬を始め、研究では、このうち一九年三月〜二〇年三月まで追跡できた八百九十一人を分析した。
 入居者全体の七割は軽度も含め認知症を患い、高血圧や心臓病、脳梗塞などの基礎疾患のある人も多かった。減薬前には、一回当たり平均で約七剤の薬を服用。多剤併用の影響とみられる徘徊(はいかい)や暴力、幻覚、せん妄などを起こす人もおり、介護にあたる職員の負担が増加していた。
 法人全体で医薬品の適正使用に取り組む方針を周知し、入居者やかかりつけ医の承諾を得て減薬を推進。ふらつきなどの副作用があるベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬は使わないなど、専門医と検討して具体的な使用薬剤の方針を明示した。それに基づき、訪問薬剤師が処方提案書を医師に出し、処方量を減らしたり、薬を変更したりした。さらに、医師や看護師、薬剤師が二週間に一度同席し、入居者らの健康状態をチェックして処方を調整した。
 研究グループは、薬剤費を減少・維持できた五百一人(56・2%)と、薬剤数を減少・維持できた五百九十三人(66・6%)を、認知機能や日常生活動作(ADL)などを判定する五つの指標を用い、薬剤費や薬剤数が増えた人と比較。その結果、薬剤費を減少・維持できた人は全ての指標で、薬剤数を減少・維持できた人は四つの指標で、増えた人より認知機能などが維持されていた。
 らいふ取締役の小林司さん(61)によると、減薬して状態が改善した人もいる。五種類の薬を服用し、認知症で大声を上げたり、対人トラブルがあったりした男性(88)は、重複していた認知症薬を一つにし、高脂血症治療薬と胃薬を中止して二種類に減らしたところ、一カ月で興奮状態が落ちついた。十二種類の薬が処方されていた認知症の女性(91)は、認知症薬や睡眠安定剤などを減らして二種類に変更。二カ月後には夜間の徘徊が収まり、笑顔も出るようになったという。
 神奈川県保険医協会が一九年十二月に実施したポリファーマシーの調査では、県内の五百六十三医療機関の医師や、千八十八薬局の薬剤師が回答。多剤併用の原因について過半数の薬剤師が「薬の副作用に、さらに薬で対応するから」と答えた(複数回答)。また医師の七割、薬剤師の四割が「できる限り(多剤併用に)対応している」としたが、「多疾患の患者はどうしても薬剤種が増える」「患者の抵抗が強く、薬の中止や減量が進まない」「お薬手帳の大切さを患者が理解せず持参しない」などの声もあった。
 研究グループの一人で、東大大学院薬学系研究科客員准教授の五十嵐中(あたる)さん(41)は、医師と薬剤師の連携強化などの対策を訴える。「薬剤師は処方に疑問があれば、医師に指摘する姿勢が重要。医師側もきちんと聴く姿勢が求められる」

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