<社説>「危険罪」認めず 法を見直すしかない

2021年2月17日 07時24分
 時速百四十六キロの乗用車がタクシーに衝突した五人死傷事故で名古屋高裁は危険運転致死傷罪を適用しなかった。要件があいまいで適用事例はかなり少ない。法自体に問題ありと言わざるを得ない。
 二〇一八年十二月の夜、津市の国道23号(六十キロ制限)で、百四十六キロを出して南下中の被告の車が、駐車場から反対車線に出ようとしたタクシー側面に衝突、乗客ら四人が死亡、一人が負傷した。
 名高裁は「常識的にみて危険な運転。しかし自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪の構成要件には該当しない」と検察、弁護双方の控訴を棄却し「同法違反(過失致死傷)罪で懲役七年」の一審判決を支持した。
 名高裁判決は構成要件として「単なる高速度ではなく、『進行制御困難な』高速度であることが必要」と述べた。
 検察側は「衝突の寸前、被告は進路から大きく逸脱した。進行制御が困難だった」と主張したものの、名高裁は「被告は自分の意思でタクシーを避けようと車線変更した。進路から逸脱したとは証明されていない」と退けた。
 一審津地裁は「被告本人には危険性の認識(故意)がなかった」との観点で危険運転を認めなかったが、名高裁は故意の有無に触れずに「制御困難な状況ではない」と述べ、検察側や遺族にとって一審より厳しい判決内容だった。
 判決では被告を「傍若無人であまりに危険」「意識の低さは相当に問題」と非難したが、結論は簡単に言えば「法律的には危険運転ではない」。「裁判官が私の立場だったら納得できますか」と語った遺族の心中が察せられる。
 判決文には、罪刑法定主義(犯罪と刑罰を法律で定めておく)の要請である「明確性の原則」に触れたくだりがあるが、同罪はその逆と言ってもいい。
 厳罰を求める被害者・遺族サイドに配慮した立法(〇一年に刑法改正後、一三年に自動車運転処罰法制定)でありながら、司法の場で不適用となって遺族を落胆させるケースが各地で繰り返されている。「制御困難(な高速度)」や「殊更な(信号無視)」といった適用条件のあいまいさが要因ではなかろうか。
 「明確性の原則」については、「通常の判断能力を有する一般人(中略)が読み取れるかどうか」との最高裁判例がある。速度など適用の条件を明確化するなど、分かりやすい条文にできないか、検討を求めたい。

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