<炎上考>勝手なエロ目線で海女を描き、当事者の尊厳を傷つけた「萌えキャラ」 吉良智子

2021年2月17日 17時00分

碧志摩メグの公認撤回を求め、署名運動も起こった

 一昔前は「ゆるキャラ」で町おこしが流行したが、近年は「えキャラ」を使う流れが出てきている。自治体が萌えキャラで地元のPRをした結果、炎上した事例は多々あるが、最も知られるケースのひとつが「碧志摩あおしまメグ」だろう。
 2014年、三重県志摩市は、「17歳の海女」という設定の碧志摩メグを公認キャラクターとした。だが反対する署名運動が起き、結局市は公認を取り消した。特筆すべきなのは、現役も引退も含めて当事者である地元の海女たちから、このキャラは過度に性的であり私たちの仕事にリスペクトがない、という声が上がったことである。
 恥ずかしそうに頬を赤らめた笑顔、身体のラインを際立たせる不自然な着物のひだ、ももまではだけた足…。その姿態は直接的に「エロ」を連想させ、職業人である当事者の尊厳を傷つけているという指摘には納得する。私の教えている学生は「冷たい海で海産物をとるのは命懸けの仕事。馬鹿にしているといわれても仕方ないと思った」と感想を述べていた。なお今日の海女はこうした伝統的な衣装ではなく、ウエットスーツ着用が一般的である。
 このように、恥ずかしがりながらも「見られる」ことを受け入れる女性像は、古代の西洋美術における「恥じらいのヴィーナス」の系譜に連なっている。胸と股間を手で隠したヴィーナスは、異性愛の男性のまなざしに応える表象として、昔から絵画や彫刻などに制作されてきた。
 実は日本にも、風光明媚めいびな土地で働く海女などの女性を、男性が描いた浮世絵や日本画がたくさんある。特に近代の日本画では、画家を含む都市の男性知識人が、地方の女性労働者の身体を、その土地や自然と結びつけて「消費」した(池田忍『日本絵画の女性像』)。海女だからと時に裸体にされたり、その身体を「エキゾチックなモノ」として勝手なエロ目線で作品にされてきたのである。
 こうした長い歴史の延長線上に碧志摩メグは存在する。つまり「萌えキャラ」だからといって、そのコンセプトは全然新しくない。時代遅れの目線なのだ。

 きら・ともこ 美術史・ジェンダー史研究者

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