ゼロから就農の飯野さん夫妻 つくばで挑むCSA農場 前払いで農作物提供

2021年2月18日 07時15分

CSAに取り組む飯野信行さん(左)、恵理さん(右)、めぐみちゃんの家族=つくば市で

 生産者と消費者が連携し、前払いで農産物を提供する「CSA」(地域支援型農業)と呼ばれるユニークな取り組みに挑んでいる有機栽培農家が、つくば市花室にある。「つくば飯野農園」を経営する飯野信行さん(53)と恵理さん(38)夫妻だ。全く畑違いの農業の世界に飛び込み、CSAを軌道に乗せた。新型コロナウイルスの影響で厳しい状況だが、農業の可能性を信じてチャレンジを続ける。 (林容史)
 CSAの飯野農園は、収穫した野菜を市場などに出荷せず、会員制を採用している。一年を前期、後期に分けて会員を募集。会員は毎週か隔週のコースを選び、農場まで野菜を取りに行く仕組みだ。一覧表に載った季節の野菜を設定された上限内で、自ら量ってマイバッグに入れて持ち帰る。会費は毎週コースで二万円前後、つくば市を中心に約四十人の会員がいる。
 近所の約五十アールの耕作放棄地を借り受け、農薬や化学肥料を使わずに葉物野菜からイモ類、トマトやナスなどの夏野菜、ソラマメ、ニンニクなど約百種類を栽培。飯野さんは「野菜のおいしさは種の遺伝子が八割」が持論で、種の自家採取にもこだわる。
 もともと、飯野さんは建具職人で、恵理さんが大学の事務職員。その二人が有機農業を知ったのは二〇一二年二月、阿見町の茨城大学農学部で開かれたシンポジウムだった。
 つくば市では、国家公務員宿舎の売却が進み、ふすまや障子の張り替えの注文が減り、建具の仕事に限界を感じていた飯野さんは一一年の東日本大震災後、「自分で食い物を作りたい」との思いを強くしていた。
 一二年春、二人は飯野さんのつくば市の実家の小さな畑を耕し、まず、レタスやコマツナの種をまいた。近所の先輩農家に教えを請いながら、栽培に取り組んだ。野菜の種類を増やし、収穫できると車に積み込んで得意先に配達し、生計を立てられるようになった。
 一四年、長女のめぐみちゃん(6つ)が生まれたことで転機が訪れた。めぐみちゃんを車に乗せ、おむつを替えたり、ミルクを飲ませたり、ぐずれば抱っこしたり…。恵理さんは「配達が終わらず夜になった。仕事と子育てを両立させるのが難しくなった」と振り返る。

東京・新橋で開かれた物産市で対面で野菜を販売する飯野さん夫妻(右)(飯野さん提供)

 そこで偶然、知ったのが米国のCSA農場だった。配達の手間が省ける上、消費者も新鮮な野菜を入手できるメリットがある。飯野さんは国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」の研究者らから経営や運営などを学び、一五年に導入した。
 飯野さんは「(消費者の会員と)顔を合わせて話ができる。みんなと一緒に暮らしている」とCSAの良さを説明する。恵理さんも「会員とのつながりが一番」とうなずく。作業の手が足りなくなれば、会員たちが自発的に手伝ってくれるという。
 一方、コロナ禍で経営環境は厳しい。一八年から東京都港区の青山の施設に野菜を送り、都内の会員に買ってもらう取り組みを始めたが、施設が休業になり、販売場所も転々とすることになった。港区の物産市など、売り上げの七割を占めるファーマーズマーケットにも昨年は一回しか参加できなかった。
 だが、飯野さんは「常連さんがいる限り、ここでやめるわけにはいかない」と力を込める。今年、新たにチューリップやグラジオラスなど花き栽培を始める計画だ。生協にも農家登録し、「できるだけ地元で売れるようやっていきたい」と前を向く。
 申し込み方法など詳しくは「つくば飯野農園」のホームページで。
<CSA(Community Supported Agriculture)> 1980年代、米国で始まったとされる農業のモデル。「地域支援型農業」などと呼ばれる。流通業者や小売店を通さず、消費者が生産者に会費を前払いして定期的に旬の農作物を受け取るシステム。生産者と消費者が経営リスクを共有する。生産者にとっては、不作時にも安定的に収入を得ることができ、消費者にとっても、地場産の新鮮な野菜が手に入り、生産者の顔が見え、安心できるなどの長所がある。

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