ヨンケイ!! 天沢夏月(あまさわ・なつき)著

2021年2月21日 07時00分

◆仲間を信じバトン継ぐ
[評]谷野哲郎(本紙編集委員)

 「ヨンケイ」とは陸上競技の「4×100メートルリレー」のことである。リレーを日本語に訳すと、「継走(けいそう)」。四人による継走だから、略して「ヨンケイ(四継)」。二〇一六年のリオ五輪で日本が銀メダルを獲得したので知っている人も多いだろう。
 本書はその四継に挑戦する離島の高校生たちを描いた物語だ。伊豆大島にある渚台(なぎさだい)高校。男子部員が三人しかいない離島の陸上部にある日、転校生がやってくる。待望の新メンバーに、サトセンこと顧問の佐藤先生は「リレーをやってみませんか」と勧める。
 四継の魅力は何と言ってもバトンの受け渡しにある。バトンワーク次第で一秒以上もタイムが縮まるため、前後の選手とのコミュニケーションが重要になるのだが、彼らはなかなか結果が出ない。絶望的に仲が悪かったからだ。
 兄と比較されることにいら立つ一走の受川(うけがわ)、スランプに苦しむ二走の雨夜(あまや)、競争に負けて転校してきた三走の脊尾(せお)、真面目すぎる四走の朝月(あさつき)。みんな自分のことで精いっぱい。相手を理解しようとする余裕がない。それでも、都大会の予選が近づき、本音でぶつかるうちに、少しずつ変化が生まれていく。
 面白いもので、四継は誰がどこを走っても同じというものではない。一走はスタートダッシュ、二走は直線の速さ、三走はコーナリング、四走は勝負強さと、区間によって個性や特性が求められる。自分はなぜ、そこを走るのか。彼らは自問し、答えを見つけていくのだった。
 本書は構成も陸上らしい。一章は一走の受川、二章は二走の雨夜と、四人の話がリレーのようにつながっていく。中学生駅伝小説の名作、瀬尾まいこさんの『あと少し、もう少し』が好きな人はきっと気に入るはずだ。
 四継走者に必要なものとは何か。リオ五輪で三走の桐生祥秀選手はこう言っていた。「(二走の)飯塚さんを置いていくくらいの気持ちでスタートを切った。絶対に追いついてくれると信じていた」。リレーの強さは相手を信じる強さでもある。
(ポプラ社・1650円)
1990年生まれ。作家。著書『サマー・ランサー』『17歳のラリー』など多数。

◆もう1冊

宝田将志著『四継(よんけい) 2016リオ五輪、彼らの真実』(文芸春秋)

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