「政治家」実朝像に迫る 『源氏将軍断絶 なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか』 創価大教授・坂井孝一さん(63)

2021年2月21日 07時00分
 鎌倉幕府の将軍といえば、真っ先に思い浮かぶのは初代の頼朝だろう。二代の頼家は暗君で、三代の実朝は文弱−。そんなイメージが根強い源氏三代について、歴史学の研究の進化を踏まえ、それぞれの将軍としてのありようを示した。
 そもそも、なぜこうしたイメージが広がったのか。一つは鎌倉幕府の歴史書「吾妻鏡(あづまかがみ)」。幕府の実権を握り鎌倉後期に全盛を極めた北条氏が、自らの正統性を主張するために都合のいい記述も多いという。加えて、実朝は「金槐(きんかい)和歌集」を残した歌人でもあった。「文学は、優れた歌人の実朝が数え年二十八で暗殺された悲劇を見ようとした。歴史学は吾妻鏡を信じて実朝像を作った。両者が『悲劇の貴公子』ということでマッチしたんです」と説く。
 歴史学の世界では一九九〇年ごろ、命令書「将軍家政所下文(しょうぐんけまんどころくだしぶみ)」の史料分析を通して、傀儡(かいらい)ではなく、将軍権力を持って積極的に政治を進めた実朝像が明らかにされ、さらなる研究の進化により、いまや定説という。本書も、多様な史料を用いるとともに、「吾妻鏡」の改変や粉飾を指摘しながら、善政に努め、朝廷の信頼を得て自らの後継構想を練った有能な将軍の姿を浮かび上がらせる。頼家についても、近年の研究動向を基に、有力御家人十三人によって蚊帳の外に置かれたわけではなく、これを補佐として自ら政治判断を下していたことを提示した。
 自身が実朝にひかれたのは、高校時代に知った和歌からだった。二〇一四年に出した『源実朝 「東国の王権」を夢見た将軍』(講談社選書メチエ)では、「金槐和歌集」の歌の解釈も交えて実朝像に迫った。「歴史学の考え方を基本に置きつつ、作品に感情が表れる文学も取り込むことに、研究者人生でかなりの力を注いできました」と言う。
 根底にあるのは、人間を見ようとする姿勢。「現代の人間もさまざまな葛藤を抱えて生きている。頼朝や頼家、実朝も同じだったんだ、と。歴史学者として、史料に基づいた血の通った歴史像を作っていくべきだと考えています」
 研究者からも「読み応えがある」との感想が届くという本書に次いで、北条氏関係の本の執筆を始めた。来年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証を担う一人でもある。能や狂言など芸能史の研究活動も続けている。当分、多忙な日々になりそうだ。
 PHP新書・一一二二円。 (北爪三記)

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