夢の酒蔵づくりを被災地で 埼玉出身の28歳が福島県南相馬市を選んだ必然

2021年2月20日 19時39分
 埼玉県出身の佐藤太亮たいすけさん(28)は酒蔵づくりの夢を追いかけるうち、「ここでやるのが必然」と思うようになった。福島県南相馬市小高おだか区。10年前に起きた東京電力福島第一原発事故後、一時は誰も住んでいなかった小高でこの春、「地元の酒」と誰もが集える場所づくりを始める。(神谷円香)

酒蔵にするためリノベーション中の民家を紹介する佐藤太亮さん(左)と立川哲之さん=福島県南相馬市小高区で

◆地域の文化の担い手に

 民家を改築した酒蔵兼バーは、小高の駅前通りから少し外れた住宅街にある。今月13日深夜にあった震度6弱の揺れで、壁に若干のひびは入ったものの大きな被害はなかった。今は庭に広々したデッキも完成し、いよいよ酒造りが始まる。

庭に木で造ったデッキが完成し、オープン間近の酒蔵=haccoba提供

 酒蔵の醸造量は年間約6000リットルと一般の酒蔵の10分の1ほど。南相馬市産の米を使い、東北の農家でかつて造られていたというホップ入りの醸造酒造りに挑む。
 慶応大4年の時、石川県の地域づくりに熱心な会社で約8カ月、インターンをした。酒やしょうゆなどを醸造する仕事は「地域の文化や暮らしの担い手」と感じた。「技を磨いて造るのに刹那的に消費される。はかなくて美しい」と酒造りの魅力も感じ、いつか人生を懸けてみたいと思った。
 楽天などインターネット関連の大手企業で勤めた。ネットサービスを通じ誰かの夢を支える仕事だったが、「人の夢をかなえるだけじゃダサい」と温めた酒蔵の夢を追いたくなった。

◆課題多いからこそ挑戦「わくわくする」

 酒造りの免許には種類があり、純粋な日本酒を造る「清酒」免許は新規参入しにくい。だが原料に米とこうじ以外も入れる「その他の醸造酒」は参入しやすいと、2017年に知った。
 どこで起業するかを探す中、地域おこし協力隊制度を活用し、小高で事業を始める人を募っていることを知った。そのプロジェクトを担う小高出身の起業家和田智行さん(44)は「課題が多いからこそ可能性がある」と考えていた。
 「挑戦する人がいる町、めっちゃわくわくする」。佐藤さんは誕生日が3月11日、運命を感じた。19年3月に退職し、プロジェクトに参加。新潟県の酒蔵での修業後、20年6月に小高へ移住した。妻みずきさん(44)が福島県いわき市出身だったことも、小高での挑戦を後押しした。都内で働いていたみずきさんも一緒に来てくれた。
 20年に酒蔵兼バーを手掛ける会社「haccoba」を起業し、東京出身の立川哲之さん(27)も加わった。脱サラ後に冬場は宮城県名取市の酒蔵に住み込みで働き、東日本627カ所の酒蔵を車で回って研究していた心強い仲間だ。
 「小高の人は自分で『ここに住むぞ』と戻ってきている。ネガティブなことは言われず、草刈りを手伝ってくれ、応援してくれる」。佐藤さんが目指すのは、お年寄りも入りやすく、他から訪ねてきた人と酒を酌み交わせる場所。よそ者が小高の文化を担っていく。

酒蔵にする民家(左)の隣は、草が生えたままの土地も広がっている=福島県南相馬市小高区で

南相馬市小高区 東京電力福島第一原発の20キロ圏内で全域に避難指示が出ていた。2016年7月12日に大部分で避難指示が解除され、山側に一部帰還困難区域が残る。11年3月11日時点の住民登録者は12840人、21年1月末時点は7003人に減少。実際の区内居住者は3758人(居住率53.7%)で、このうち65歳以上の高齢者の割合は48.9%に上る。


おすすめ情報

東日本大震災・福島原発事故の新着

記事一覧