忖度なき報道貫く ニュース専門ネット局 ビデオニュース・ドットコム 神保哲生 編集主幹に聞く

2021年2月21日 07時07分
 広告に頼らず、視聴者からの会費だけで運営されているネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」がいま注目されている。1999年の開局以来、既存メディアが取り上げにくいテーマにも忖度(そんたく)なく取り組み、週1回の番組「マル激トーク・オン・ディマンド」は通算1000回を超えた。無料のニュースサイトの乱立が既存メディアの足元を揺るがす中、存在感を増す同局の神保哲生編集主幹に聞いた。 (鈴木伸幸)

「マル激トーク」の収録の様子。(左から)ジャーナリストの迫田朋子さん、神保哲生さん、都立大の宮台真司教授が議論を展開した=東京都品川区で

 −「マル激トーク」が好評だ。
 毎回、私と社会学者の宮台真司さん(東京都立大教授)がホストとなり、ゲスト識者と約二時間議論して、それを最小限の編集で流している。事前に打ち合わせはせず、予定調和なしの議論から深い話が生まれる。既存テレビ局と同じゲストや似たテーマでは見てもらえない。徹底してジャーナリズムを意識していることが、長続きの理由だと思う。
 「コロナ禍」の議論では、内科医で法学者でもある東京大の米村滋人教授をゲストに呼び「欧米と比べて日本の人口当たりの病床数は圧倒的に多く、重症感染者が桁違いに少ないのに『医療崩壊』となるのは制度に問題があるから」と、いち早く指摘した。この放送後に既存メディアも制度問題を取り上げるようになり、米村教授も“メジャーデビュー”を果たした。既存メディアは記者クラブを通しての官製情報に頼り、「発表ジャーナリズム」に陥りがちだ。
 −「広告ゼロ」のビジネスモデルにこだわる理由は?
 以前、フリーのビデオジャーナリストとしてテレビ局向けに映像リポートを売っていた。「自動車の安全」や「食の安全」といった企画は広告主との関係があってまず通らない。地球温暖化やマイクロプラスチックの環境問題も、今でこそ報じられるようになったが、以前は利害関係者への忖度からか、取り上げようとしなかった。放送は許認可事業なので、政権批判にも及び腰になりがち。何事にも、何者にもくみしないジャーナリズムの独立性を確保するには「広告ゼロ」が不可欠だった。

2003年3月、米ケーブルテレビに出演した際のピーター・アーネット記者=ロイター・共同

 −米国には「デモクラシー・ナウ!」など、寄付で運営されているネット報道機関もあるが。
 寄付であっても、出資者にどうしても忖度が働きがち。視聴者が寄付をどう受け止めるかという問題もある。私たちに支援を申し出る人もいるが、お断りしている。ワンコインの月五百円(税抜き)を会費とすることで、どんなテーマにも取り組むことができる。
 −ビジネスとして成立させるのは、大変だったのではないか。
 本格放送を始めて丸九年の〇八年末に会員が八千人を超えて、やっと月の収支が黒字になった。それまでは私が大学で教えたり、翻訳したり、本を出したり、テレビ局にドキュメンタリー番組を売ったりしたお金で赤字を埋めていた。もちろん借金も。クレジットカードのローンに頼ったこともあった。家族の理解がなければ、できなかったかもしれない。
 「不安はなかった」といえばウソになるが、オンリーワンとしての自負はあったし、既存テレビ局の下請けには戻りたくなかった。常勤三人で小さく始めたので「何とかなる」と構えていた。一貫して会員は増え続け、もう少しで二万五千人。大きな借金はようやく返し終わった。
 −そこまでして、ジャーナリズムにこだわる理由はどこにあるのか?
 原点は小学生時代。私はやんちゃで、よく先生に叱られた。それは構わないが、先生が優等生をえこひいきすることに納得できなかった。そこで壁新聞を作った。それが読まれるようになると、先生のえこひいきは表面上、止まった。子ども心にメディアの力を感じた瞬間だった。
 映像の魅力に取りつかれたのは、一九九一年の湾岸戦争で元AP記者のピーター・アーネット氏がCNNの特派員として現地から送ってきたリポートを見てから。それまで、戦争報道は通信社の独壇場だったが、戦場からの生中継が可能になった映像の力を見せつけられ、フリーのビデオジャーナリストとなった。
 −既存のテレビ局の現状をどう見ている?
 テレビ局は常に視聴率を気にする。九〇年代のバブル崩壊後はそれが顕著で、局員が「報道の公共性」といった主張をすると干されることも。番組作りは無難になり、複雑な問題は分かりにくいので避け、尖(とが)った報道はしない。報道番組の軽薄短小化が進んだ。
 そんな背景があるから、ワンテーマで約二時間の私たちの番組も存在価値を認められている。会員は、大学生と大学院生、それに定年退職後の世代、さらには、四十代から五十代の主婦層が多い。時間に余裕がある意識の高い人たちが見てくれている。課題は三十代から五十代の「働き盛り」の男性が少ないこと。その世代にも刺さるような番組作りを進めていきたい。
<じんぼう・てつお> 1961年、東京生まれ。国際基督教大卒。米コロンビア大ジャーナリズム大学院修了後、米AP記者などを経て94年からフリーのビデオジャーナリストに。映像リポートをテレビ局などに提供。99年、ビデオニュース・ドットコムを開局。著書に「ビデオジャーナリズム」など。

関連キーワード

PR情報