愛するあなたへ 鷲見広子

2020年4月26日 02時00分

イラスト・瀬崎修

 プレゼントをありがとう。
 今朝、玄関前に置いてあって、びっくりしました。あなたにとっては、ノドから手が出るほど欲しいものだったでしょうに。
 思えば、私たちの関係はもう二年になりますね。
 あなたの潤んだ瞳に見つめられると、私は幸せな気持ちでいっぱいになります。
 だから、私もつい人目も気にせず、あなたを抱きしめ、ほおずりまでしてしまうのです。
 私たちは相思相愛ですね。
 でも、ネズミのプレゼントはいりません。
 ネコに何とかと言うでしょう。
 次回からは、あなたには不要な小判の方をお願いします。 (岐阜県関市・介護職員・70歳)
◇ ◇ ◇ ◇

不眠 小林正夫

 最近、眠れない。医者に行ったが、眠れない。
 ある夜、私は、ベッドで羊の数を数えた。
 「羊が一匹…羊が二匹…」
 羊が柵を飛び越えていく。眠れない。
 「…羊が五十匹…羊が五十一匹…」
 よく見ると、羊の列に兎(うさぎ)が並んでいる。
 私は兎に話しかけた。
 兎は「待っていました。この列に並んでくれる方を待っていたんです」と言って、私と交代した。
 私は羊の列に並んでいる。
 兎が、羊の数を数えている声が聞こえる。
 「…羊が二百三十匹…羊が二百三十一匹…」
 私の番が来た。
 私は柵を飛び越えた。
 そこで、私は目が覚めた。
 よく眠れた。朝だ。
 (名古屋市北区・会社員・62歳)
◇ ◇ ◇ ◇

昆虫 清水久光

 私は、子どもの頃から昆虫が大好きだ。
 朝ごはんを食べ、虫かごを肩にかけて、虫取り網を片手に家を飛び出した。友人と虫取りをしては、捕まえた成果を見せあう日々。
 「これって何の虫?」
 「これはね、カマキリの幼虫なんだ!」
 昆虫の知識は誰にも負けない自信があった。友人に聞かれるたび、私は誇らしく感じていたのだ。
 昔はさまざまな種類の虫を見たが、最近は数も少なくなった。
 家の庭で舞っていたモンシロチョウも、近頃は姿を見せない。
 しかし、今でも昆虫が大好きな子どももいる。子どもが新しい虫の生態を発見したなどというニュースを目にすると、私は自分の事のように嬉(うれ)しく感じる。
 虫を捕まえて喜ぶ子どもの姿を、私は何より大切にしたい。 (宮崎県門川町・無職・73歳)
◇ ◇ ◇ ◇
 目と目が合ったら抱き締めずにいられない、鷲見広子さんの「愛するあなたへ」。「あなた」からの真心のこもった贈り物。でも、お互いの価値観には越えがたいギャップがありました。
 安らかな休息を願って、小林正夫さんの「不眠」。羊の数を数えるという古典的な就眠儀式を試してみたら、そこで待ち受けていたのは、夢の国の案内人だったようです。
 子どもたちが自由に野原を駆け回っていた時代を振り返って、清水久光さんの「昆虫」。遊びの中で、さまざまなことを学んだあの頃。懐かしい童謡が聞こえてきそうな情景です。

関連キーワード


おすすめ情報