<新型コロナ>伝統工芸の危機…匠の知恵で生き残り模索 新商品や輸出、ネット販売も

2021年2月22日 06時00分
 東京の伝統工芸が、新型コロナウイルスの影響で存続の危機にさらされている。需要の落ち込み、職人の高齢化といった慢性的な課題を抱える中で、国内外からの観光客の激減やイベントの中止が直撃した。江戸文化の薫りを色濃く残すたくみの技を後世に残そうと、新製品の開発などに知恵を絞っている。(嶋村光希子)

透明マスク「ミセルンデス」をつける東京和晒の滝沢一郎社長。左手に持つのは手ぬぐい用生地でつくった「らくなマスク」など

◆祭りやイベント中止で需要大幅減

 「手ぬぐいを使う大きな祭りやイベントの中止で、仕事が全くなくなった」
 重ねた生地に染料を注ぎ、染色する「東京本染ほんぞめ」と呼ばれる伝統技法で手ぬぐいを製造・販売する「東京和晒わざらし」(葛飾区)。4代目の滝沢一郎社長(63)が嘆く。「密」を防ぐために大規模な祭りが中止になり、企業イベントの記念品などで配られる手ぬぐいの需要もなくなった。売り上げは最も悪い月で前年の8割減にまで落ち込んでいる。

アマビエ柄の「らくな手ぬぐいマスク」

◆手ぬぐい生地で息のしやすいマスク考案

 滝沢社長は昨春、品薄になったマスクの代わりとして手ぬぐい用のさらし生地が売れたことに着目。市販マスクに息苦しさを感じていたこともあり、さらし生地で、あごの部分に隙間があるマスク「らくなさらしマスク」を作った。飛沫ひまつを防ぐ上に息がしやすく、メガネがくもりにくいのが特徴で、昨年6月以降、約5万枚が売れた。

◆ビニール素材で口元見えやすく

 今年1月には、同じ形状で、ビニール素材の透明マスク「ミセルンデス」も売り出した。口元の動きや表情が見え、滝沢社長は「演劇や芸能、手話通訳の場で活用してほしい」とアピールする。

東京和晒が開発したびニール製の透明なマスク「ミセルンデス」。口元の動きや表情が良く見える

◆生産抑えても経費は重く…

 海外展開に活路を見いだすのは、「江戸切子きりこ」や「江戸硝子がらす」のガラス製品を製造する「田島硝子」(江戸川区)。宴会や婚礼の自粛でホテルや飲食店向けのワイングラスに加え、引き出物の需要も激減。週5~6日だった生産を3~4日に抑えている。ただガラスを溶かす炉は常に稼働させておく必要があり、月に約250万円のガス代や、職人約50人の人件費が経営に重くのしかかっている。

外国人観光客に人気の田島硝子の「富士山グラス」=田島硝子提供

◆人気の「富士山グラス」海外へ

 そこで、グラスの底に富士山の形がデザインされ、色の付いた飲み物を注ぐと底の山肌の色が変わる「富士山グラス」が、外国人観光客に人気があることに目を付けた。在庫になっていた土産物を中国や台湾に輸出。さらに国内外の業績が好調な企業に記念品として積極的に売り込んでいる。田嶌大輔社長(45)は「伝統を絶やさぬよう、コロナ禍を乗り越えたい」と前を向く。

◆人形も販売減…ネット販売強化

 ひな人形や五月人形の「江戸衣裳着いしょうぎ人形」を製造する「松崎人形」(足立区)は、主な取引先の百貨店の休業が打撃となった。個人経営の人形専門店も資金繰りが苦しく、仕入れを控える動きが目立つ。松崎光正社長(67)は「取引先には昨年売れ残った在庫があり、今年の注文も期待できない」と明かす。

ひな人形づくりに励む松崎人形の松崎光正社長

 このため昨年12月から、若者に人気の手作り品売買サイト「クリーマ」に出品を開始し、売れ行きが好調だ。商品を喜ぶ客の「口コミは励みになる」と松崎社長。今後は幅広い世代への販路開拓のため、ネット販売を強化していく。

◆「まずは手に取って使って」

 伝統工芸品は、高級な嗜好品しこうひんとみられることが多く、ある職人は「不要不急だとして生活に余裕がなくなると出費を削られてしまう」と嘆く。伝統工芸品の企画・販売などを手がける「える」(品川区)の昨年の調査では、伝統産業に携わる事業者の約4割がコロナ禍で急減した売り上げが元に戻らない場合、廃業する恐れがあると回答した。
 「和える」は伝統工芸の体験教室などが中止になる中で、職人の作業場を見学するオンラインイベントなどを企画している。伝統工芸品の需要の回復には時間がかかると予想するが、同社の担当者は「外出の自粛で家にいる時間は長くなっている。伝統工芸品を一つでも購入して使ってみてほしい。職人の仕事を守るだけでなく、文化や技術を後世につなぐきっかけになる」と提案した。

 

◆「今こそ地元の工芸品の良さ見直して」

 静岡文化芸術大の高島知佐子准教授は、東京の伝統工芸品について「地域性を出しにくく、知名度は高くない。さらに外国人観光客の土産物需要が高かったため、コロナ禍で特に打撃を受けている」と分析。「インバウンド(訪日外国人客)が消失した今こそ、国内需要の喚起が重要。自粛で遠方には出掛けられなくても、地元の工芸品の良さを見直し、愛着を持つ機会にしてほしい」と話す。

東京の伝統工芸品 東京都内で受け継がれた伝統的な技術・技法で作られる工芸品。都が41品目を指定する。落ち着いた色合いや実用性の高さが特徴。昨年4月時点の推計で事業者数は約950社、従事者数は約2000人。

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