介護保険制度のこれから

2021年2月22日 06時41分
 高齢期の生活を支える介護保険制度が創設二十年になりました。来年以降、団塊世代が七十五歳を迎え始めます。超高齢社会では介護サービスのあり方がさらに重要になってきました。これまでの制度を振り返り、今後取り組むべき課題は何か、どう解決していけばいいのか。ニッセイ基礎研究所の三原岳主任研究員と考えました。

<介護保険制度> 介護を家族で抱え込まず社会全体で高齢者の生活を支える「介護の社会化」を目指し2000年4月にスタートした。サービスを利用者自身が選び、介護を受けながらの自立した生活の実現を理念に掲げる。40歳以上が支払う保険料、国と地方の公費、利用者の自己負担で賄う。要介護度に応じて在宅や施設で食事や入浴の介助、リハビリなどを受けられる。

<介護報酬> 介護サービスを提供する事業者に介護保険制度から支払われる費用の公定価格。国が定めており原則3年ごとに見直される。報酬を引き上げるとサービスの充実や介護職員の待遇改善につながるが、利用者の自己負担などが増える。2021年度の見直しでは感染症の発生や自然災害に備え事業者に経営継続に向けた計画策定などが義務付けられる。

◆制度超えた連携必要 ニッセイ基礎研究所主任研究員・三原岳さん

 鈴木 二〇〇〇年度にスタートした介護保険制度は、すっかり定着したように見えます。 
 三原 映画が好きでよく見ますが、ヘルパーさんや看護師さんが家に来るシーンが見られます。映画は同時代の人の感覚や文化などその時の価値観などを映します。一九八〇年代ぐらいまでは家族介護が当たり前でしたが、今は介護保険の認知度が上がったと感じます。
 鈴木 制度がつくられた時代は、高齢者が安心して暮らせる受け皿がありませんでした。
 三原 当時は施設に行ってもらうか、病院に入ってもらうか、家族が自分の生活を犠牲にして介護するしかなかった。病院は「老人病院」と言われ、家にいられないので社会的入院を余儀なくされました。在宅のケアは税財源の(行政が対応を決める)措置制度でした。貧弱な在宅ケアが高齢者や家族の選択肢を狭めていました。
 鈴木 介護保険は高齢者の自立した生活を実現する。そのために自らサービスを選ぶ自己決定権を大切にしています。
 三原 その通りですが、実はもうひとつ介護保険導入の狙いがあります。それは高齢者の医療費削減です。当時、(高齢者加入が多い)国民健康保険の財政がパンク寸前でした。そこで、介護保険をつくり社会的入院に対応することで、その分の医療費を削減しようとしました。
 鈴木 制度には費用を抑制する仕組みが入っていて、それは要介護認定、区分支給限度額、ケアマネジメントの三つだと指摘していますね。
 三原 いずれも費用を抑制する仕組みです。要介護度は計七段階でサービス必要量を判定します。まずここに該当しないとサービスを受けられない。区分支給限度額は各要介護度に応じて月に使える費用の上限を決めています。それ以上の費用は全額自己負担になる。限度額上限を設けることで費用の使い過ぎを防ぐ。ケアマネジメントはケアマネジャー(ケアマネ)が給付を管理し、利用者本人の希望を聴きながら過不足ないサービス利用になるようにします。この仕組みで全体として費用を抑制しようとしています。
 鈴木 ケアマネは利用者に最も近い専門職ですが、そんな役割があったんですね。それに介護保険サービスから利用者の希望に沿ったプランを考えることが職務だと思われています。
 三原 ケアマネはケアプランを作成すると介護報酬が出ますが、介護保険のサービスをプランに入れないと報酬がもらえません。どうしても介護保険ありきになってしまう。本来、プランは利用者がどんな暮らしをしたいのか、そのためにどんな障害が生活上にあって誰がどう解決するのかを考え解決策の一環として、使える介護保険サービスは何かという順番で考えるべきです。
 利用者の望む生活実現には地域に使える資源があるはずです。例えば、学ぶことが好きなら大学の生涯学習講座があるし大学までの移動にはボランティアを頼むとか。介護保険サービスだけに選択肢を絞る発想は誤りです。
 鈴木 その場合、地域の資源の存在や、本人のライフスタイルを知る必要があります。
 三原 そこがケアマネしかできない専門性なんです。地域資源は市区町村がリストをつくればマッチングはケアマネができる。ケアマネは利用者宅で旅行に行ったときの置物や写真を見て利用者が旅行好きだとか、写真が趣味だといった情報を把握できます。そうなら写真サークルを紹介できたりします。一方で、利用者も自分から実現したい生活を提案することも大切です。「お任せします」と言われるのが一番困るとケアマネから言われます。
 鈴木 ただ、制度も二十年たち複雑化しました。どんなサービスがあるのか分かりにくい。
 三原 複雑化した制度を焼き鳥店の利用に例えると、メニュー表は分厚く、焼き鳥は産地、味付けやタレの種類・量、串に刺さる肉の数、入退店時間、調理法で価格が違う。分からないので「お任せ」を頼んでも、店主(介護事業者)も分厚い解説本を読んでいる。財政が厳しいので、国は三年ごとの介護報酬改定で、制度やルール、加算(ボーナス)を設定し、給付の重点化を図ります。その結果、制度が複雑化しています。しかし、複雑化は利用者不在となり自己決定をしにくくします。厚生労働省も制度の簡素化を意識しており、重要な視点です。
 鈴木 利用者もケアマネの役割や利用者の自己決定の尊重など制度の原点に返ってみる必要がありますね。今後、高齢者数は二〇四二年に約三千九百三十五万人とピークを迎えます。介護保険でどう支えていくか大きな課題です。
 三原 課題は財源不足とサービスの支え手の不足、この二つの不足、それにサービス提供のあり方として認知症ケアと在宅医療・介護の充実が課題です。
 鈴木 制度がスタートした年に介護保険から給付した費用は約三・二兆円でしたが、直近では十兆円を超えているでしょう。人材は二五年には今より四十万〜五十万人が不足します。
 三原 将来世代につけを回すのは嫌ですが、財源は財政赤字つまり借金で時間は稼げます。しかし、人手不足にはそれができません。しかも、これという解決策はない。介護職の賃金の低さが問題となっていますが、それだけでなく、職場の人間関係の悩みやキャリアアップの道筋が見えないことも離職の理由になっています。
 厚労省は処遇改善やキャリアアップができるコース確立、外国人労働者の活用、ロボット導入、ボランティア人材の活用、事務作業の削減などを対策として示しています。政策の流れは介護職を専門の介護の仕事に集中させ周りの生活援助はボランティアに任せる方向です。しかし、身体介護と生活援助は本来、切り離せない。それをやる方向になっているのは、それだけ人手不足が深刻化している表れでしょう。
 鈴木 介護保険を巡る二つの不足の解決が簡単ではない以上、認知症の人への対応や在宅支援は介護保険だけでは支えきれないのではないですか。
 三原 そうです。介護保険の使える範囲は狭い。そこで、地域や民間企業も有力な支え手になります。降りる駅を間違えた人が認知症だと、駅員が理解すれば持っている定期券を見て道順を説明できます。愛知県豊明市では高齢者の移動に使う送迎サービスのシステムを官民連携で実施しています。介護保険の枠を超えて考える必要があります。
 住民はそれぞれの生活や地域について知恵や経験を持つ専門家です。住民、自治体、企業が協力すれば超高齢社会もいい社会になるのではないでしょうか。

<みはら・たかし> 1973年、岡山県生まれ。早稲田大政治経済学部卒。時事通信社記者、東京財団研究員を経て2019年から現職。著書・論文に『地域医療は再生するか』(医薬経済社)「日本の医療保険における保険料賦課の現状と課題」「介護報酬複雑化の過程と問題点」(いずれも学会誌「社会政策」)など。

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