<ひと物語>窮地を好機に 販路拡大 越谷いちごタウン社長・荻島元治さん

2021年2月22日 07時11分

「農家の仕事は試練に屈しないぐらいの覚悟がないと」と話す荻島さん=いずれも越谷市で

 鈴なりの赤い実と甘酸っぱい香りが、訪れる人の笑顔を誘う。そんな光景が一変したのは、昨年四月の緊急事態宣言だった。越谷いちごタウン(越谷市増森)のビニールハウスから人の姿が消え、昨シーズンはゴールデンウイークを前に閉めざるをえなかった。
 越谷いちごタウンは、約一万平方メートルの栽培面積に八棟のハウスを抱える関東最大級のイチゴ観光農園だ。二〇一五年一月のオープン後、客足は最多シーズンで三万五千人に上り、順風満帆だった。そこにコロナ禍が襲い、昨シーズンの来園者は前年比約四割減の約一万九千人。売り上げは約二割も落ち込んだ。運営会社社長の荻島元治さん(55)は「地獄のような日々だった」と振り返る。
 荻島さんは高校卒業後、農家を継ぎ、チューリップなどの花卉(かき)を生産していた。約十年前、力仕事が比較的少なく、娘たちも手伝いやすいとしてイチゴに転作を試みた。そのころ市も高収益が期待できるイチゴ栽培に狙いを定め、市外からも客を呼び込める観光農園を軌道に乗せる準備を始めていた。経験のない荻島さんにとっても渡りに船だった。
 都心に近い立地で気軽に立ち寄れるイチゴ狩りを目指した。高床式の高設栽培で、来園者が腰をかがめずにイチゴを手に取りやすいよう工夫。紅ほっぺやあきひめなど味も香りも異なる種類の食べ比べで、ほかの産地との差別化も図った。
 気温が四〇度を超える真夏のハウスでも、大切な苗作りに汗だくで丹精を込める。そして実が育ち、赤く色づく。だが、訪れる人がいなければ行き場を失う。コロナ禍は、まさに「客待ち」の観光農園の足元を揺さぶった。「ひと粒たりとも無駄にしない」。窮地を好機ととらえ、販路拡大の「攻め」に転じた。
 市の呼び掛けもあって職員に約千三百ケースを販売し、パック売りも拡大。今年一月からはインターネット販売も始めた。「視野が広がり、人の情けのありがたみも知った」。市内の観光農園が協力して冷凍イチゴでジャムをつくり、小中学校の給食に使ってもらうことも模索している。
 企業との人工知能(AI)を使った共同研究も進んでいる。二週間後の収穫量が予想できれば、来園者の予約数も計算できる。AIのデータを蓄積すれば後継者にも役立つ。研究は途上だが、「農家の勘や経験に頼るだけではなく、収穫期と客のマッチングなどに活用できれば」と期待する。
 ハウス内の入場制限や換気など、新型コロナの感染防止策にも気を配る。「先輩たちも天変地異を何度も乗り越えてきた。農家の仕事はそんな試練に屈しないぐらいの覚悟がないとやってられませんよ」と声を張った。 (大沢令)
<おぎしま・もとじ> 越谷市生まれ。株式会社越谷いちごタウン社長。越谷いちご団地生産組合長も務める。同社が運営する越谷いちごタウンは45分食べ放題で小学生以上2200円、3歳以上就学前まで1200円。5月末まで開園予定。予約制。問い合わせは、越谷いちごタウン=電048(965)1514=へ。 

来園者がイチゴ狩りを楽しむ越谷いちごタウン


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