<民主主義のあした>誰もが参加 「デジタル民主主義」が築く未来 オードリー・タン氏

2021年2月24日 04時00分

◆中国モデルの根本的な問題

 ―中国では、厳格な都市封鎖など強権的な手法で感染拡大を抑え、共産党統治の優位性をアピールしています。一方、欧米や日本などの民主主義国家では感染拡大は深刻です。民主主義を実践し、さらに感染を封じ込めた台湾の立場から、このような状況をどのようにみていますか。
 中国政府がいう挙国体制下では、例えば都市封鎖を含む市民の移動制限など、すべての人々が監視状態に置かれました。これらは感染対策として実際に効果的でした。しかしメリットと同時に、根本的な問題もあります。一つは、報道や言論の自由が制限されているため、政府が知らない事実、さらに政府が認めない情報は、市民の間に広まりません。(感染拡大に警鐘を鳴らした後、自らも感染死した)李文亮りぶんりょう医師のケースは象徴的です。
 また、多くの市民が報道や言論の自由がないことに慣れてしまい、さらには経済発展には必要だと思い込んでしまえば、(言論の自由と)社会利益を同時に追求する「台湾モデル」は模索することすら難しくなります。

◆市民のメディアリテラシーも重要

 台湾モデルは、マスメディアだけが(情報発信など)メディアとしての役割を果たすのではありません。いかなる市民も(情報発信するための)ネット環境を整えることが可能で、メディアリテラシーも重要になります。今回、台湾市民は正確な科学知識を普及させる役割を果たし、都市封鎖が全くない状況下でも感染を抑制しました。これは言論と報道の自由がある台湾モデルに基づきます。李医師の発した情報も(感染が最初に広まった)武漢の市民には伝わりませんでしたが、台湾市民には速やかに伝わり、対策に生かされました。

オンラインでインタビューに応じたオードリー・タン氏

 ―政府がすべてを管理することはできないということですね。
 社会の変化や問題にいかに速やかに対応するかは、政府の正統性に関わると思います。しかし、民主主義どころか基本的な報道や言論の自由がなければ、政府が社会で実際に発生している状況、たとえば新たな感染症の発生について、明確かつ正確に把握することはできず、自分で自らを縛ることになります。
 たとえば性的少数者(LGBTQ)の問題について「自分たちのことは自分たちが(決定に)参加する」という言葉がありますが、これは単に人権の問題ではなく、政府の正統性の問題でもあります。もし性的少数者について理解している人々が政策決定に関わらなければ、全く非民主的です。このような政府は常に正統性の危機にさらされます。そのため、もしすべてを政府が管理するのであれば、新しい状況が発生するたびに正統性が問われることになります。これは(中国のコロナ対策で)みなさんが見たことです。

◆相互理解を促すオンライン世界

 ―デジタル技術はLGBTQや多様性の問題に影響を与えますか。
 デジタル世界では性的少数者がとても自然な存在になります。コンピューターは私の性別や性的指向について尋ねず、オンライン世界は比較的安全な空間になるのです。性的少数者を含むマイノリティーには、実社会で声を上げるのが難しいこともあります。ですがオンライン世界では、同性愛者などのコミュニティーを見つけることは難しくなく、少数者と感じません。すべての人が少数者の経験に基づき、周囲の世界を理解することが可能になります。これは多元的に交差する相互理解であり、互いを理解し合う経験となります。
 ―中国は昨年6月に香港国家安全維持法(国安法)を施行して香港の自治や自由を抑圧、台湾統一も目指し圧力を強めています。
 香港の国安法については対中政策の担当部局が明確な態度を示しています。この法律は香港人が民主的に関わることなく制定され、香港の民主主義や自由、司法の独立を脅かしており、大部分の台湾人が反対しています。いわゆる「一国二制度」に大きなダメージを与えるでしょう。
 また(台湾の)蔡英文さいえいぶん総統が新年の談話で述べた通り、(中台の)両岸関係の安定は両岸に限らず、世界的な焦点になっています。(蔡氏は)双方の市民が交流を深め、理解を深めることに期待を示しました。コロナ禍でももちろんネットを通じた交流は可能ですが、(中国の)言論統制によって困難になっています。

◆デジタル化は人権に主眼を置いて

 ―日本のデジタル化と民主主義をどう見ますか。
 私が言及したデジタル分野での公共的な取り組みは日本でも一定の支持があり、発展しています。日本のデジタル庁などの行政改革はこの方向に向かっていると思います。方向性さえ正しければ、社会や経済などより広い分野からイノベーションが生まれ、政府のみが社会問題に取り組むということがなくなるでしょう。社会や経済分野での活力に満ちたイノベーションほど貴重なものはありません。たとえば「マイナンバー」の制度設計において、社会分野からも関与し、政府だけが(市民を)監視するのではなく、社会経済の各分野の相互信頼を促進する方向に向かえば良いと思います。そうすれば民主的な考え方を深めることができるでしょう。台湾も同様に人権を主眼においた方向に進んでいます。
 デジタル技術の発展で、1人の人間がさまざまな場面で、異なる文化や年齢の人たちと知り合い、友人になれるようになりました。若者が経験豊かな友人と対立するのではなく、社会問題を解決するために議論をすることもできます。台湾では初歩的な成果が得られており、日本の参考になるかもしれません。

オードリー・タン(唐鳳) 1981年4月、台北市生まれ。幼いころからプログラミングを独学し19歳でIT企業を起業。米アップル社顧問などを歴任した後、2016年に民間登用でデジタル担当相に就任。トランスジェンダーであることを公表している。

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