<民主主義のあした>誰もが参加 「デジタル民主主義」が築く未来 オードリー・タン氏

2021年2月24日 04時00分

オードリー・タン氏=本人提供

 新型コロナウイルス対策に欧米各国が手間取る中、台湾はデジタル技術を活用して感染拡大を防ぎ、民主主義的な感染症対策のモデルを世界に示した。「デジタル民主主義」を提唱する台湾のデジタル担当相、オードリー・タン(唐鳳とうほう)氏(39)に民主主義の将来を聞いた。(聞き手=中国総局・坪井千隼)
 ―「デジタル民主主義」を説明してください。
 民主的なプロセスの中で、最も重要なことは相手の意見を聞くことです。そうしなければ、立場が異なる人々が生きる社会で、51%の人々が勝ち、49%の人々が負けることになります。従来の代議制民主主義は選挙で代表を選びますが、数年に1度程度の限られた回数の投票だけでは、社会や政治の問題に対する人々の見解が十分に政治に反映されません。
 そこでデジタル技術の力を借りるのです。すべての人がいつでもどこでも、社会問題や公共的課題について優れたアイデアがあれば、社会に提案して広め、政府の政策に反映させることができます。数年に1度の選挙を待つ必要はなく、短い時間で立場の異なる人々と異なる価値観を共有することができます。これこそが私が言うデジタル民主主義です。

◆民主主義のチャンネルを増やせ

 ―デジタル技術を活用することで代議制民主主義の欠点を補い、民主主義制度をより高めるということですね。
 民主的に選ばれた代表(議員)であっても、どんなに努力してもすべての有権者の声を聞き、民主的なプロセスに反映させることはできません。そこで、インターネットを通じて直接参加する民衆の意見を理解すれば、不足した部分を補えます。
 例えば台湾では現在、ある議題について5000人以上がネット上で署名すれば、2カ月以内に政府の担当部局トップが回答する必要があります。(これまでに議題になったのは)例えばプラスチック製ストローや使い捨て食器の禁止、離島などへき地で医療を受ける権利の問題などです。こうした取り組みは民主主義のチャンネルを増やします。同時に関係する議員を排除せず、一緒に議論することもあります。このような取り組みのメリットは、あらゆる事柄を政府が管理するのではなく、どんな市民もよりよい解決策を提示し、コンセンサスを広めることができることです。
 ―新型コロナの感染拡大初期にマスク不足で混乱が起きた際、台湾では各店舗ごとの在庫状況を知らせる「マスク地図」のアプリで、市民の不安を除くことに成功しました。
 「民主」は政府の行動だけでなく、市民社会がさまざまな方法を通じて社会的に意義のあることを行うことを含みます。これらはすべて社会的なイノベーションです。

◆政府と市民は競争関係ではない

 マスク地図は行政ではなく、台南市の市民が発案したものです。マスクを売っている場所を探す人々を助けるために、一般の技術者が考えたのです。重要なのは、台湾ではマスク地図よりも以前に、大気汚染の状況や水質を掲載する地図があることです。われわれ台湾の市民社会では、市民が実際の状況を調べ、みんなと共有するということが普及しているのです。
 マスク地図に関しては、政府はすぐに6000店以上の薬局と調整し、30秒ごとの在庫状況のデータを提供するようにし、多くの一般技術者も(地図の)開発に利用できるようにしました。その後、(当局提供のデータと)連携する100以上のアプリが出現し、われわれも在庫状況に応じてマスクを出荷するように改善を促しました。最終的にみんなが一緒に協力する状況になったのです。
 政府は市民社会と競争関係にあるのではありません。コロナ禍では、みんなが(マスクの)データを信じました。それは政府が発表したからではなく、すべての人がそのデータを検証できたからです。

デジタル技術を活用して民主主義を深めることが重要だ、と語るオードリー・タン氏

 ―トランプ政権の4年間で、米国だけでなく世界各地で社会の分断が進みました。米国では連邦議会が襲撃される事態も発生し、民主主義の限界を指摘する声もあります。
 バイデン大統領の就任式で、若き詩人(アマンダ・ゴーマンさん)が語った通りだと思います。民主主義は一時的に後れをとることがあっても、永遠に負けることはありません。
 最も重要なのは、民主主義を深めていくことです。市民社会はすでに(さまざまな課題への)解決策を持っています。ですが数年に1回の選挙制度の制限があり、この(投票)過程で異なる立場の人々が大まかなコンセンサスに達することができなければ、当然ながら民主的なプロセスとは異なる行動方法を選択する人々もいるでしょう。いま紹介した台湾の署名制度ならば、ネットが街頭(抗議デモなど)を代替することができます。もちろん街に出て抗議する権利を奪うわけではありません。そうではなく、路上に出て抗議する前にネット上で問題に関与したり、議論したりして、共通の認識を築くことができる。抗議はもちろんできますが、より建設的な方法で抗議できます。

◆誰もが発言権を持つデジタル社会

 これは客観的な環境の変化でもあります。ネット時代以前には、市民と政府が交流する機会は少なく、市民と市民も直接接触できる範囲に限られていました。しかし現在はSNS(会員制交流サイト)があり、市民と市民が交流する機会が大幅に増えました。ただし同時に、政府が市民と交流する機会の増加が(市民同士の交流増加に)追いつかなければ、(一部の市民が)比較的過激な行動をとることになります。
 古代(ギリシャ)文明を振り返ってみましょう。1つの都市、あるいは広場では聴衆の人数は限られています。もちろんその後に新技術が生まれ、例えばテレビ放送が出現しましたが、発言権はやはり少数の人々が握っていました。しかし現在のネット技術では、いかなる人もそのような発言権を持つことができます。これはデジタル技術によってつくられた客観的な環境の変化です。
→次ページ:デジタル世界はLGBTQと社会を変えた

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