因果な職業である。苦しみ、痛みに耐え、ほしいものをようやく…

2021年2月25日 06時45分
 因果な職業である。苦しみ、痛みに耐え、ほしいものをようやく手にしたところから、プロボクサーの下り坂は始まることがあるという▼元王者の具志堅用高さんがかつて、本紙の連載で回想していた。「あれほど努力を重ねて、あれほど技術を磨いても、ハングリーな精神を失ったとたんに力が出なくなるんですよ」。連続防衛記録を達成してまもなく、具志堅さんは敗れ、引退している▼今月、短い訃報が紙面にあった。六十七歳の若さで亡くなった米国の元ヘビー級世界王者レオン・スピンクスさんは、この世界の激しい明暗を体現した人のようだ▼アリに勝ったあの男かと思い出した方もいるかもしれない。一九七八年に王者ムハマド・アリさんを破った時はプロ歴わずかの若手だった。大番狂わせである▼王座はすぐに奪い返されるが、名声と大金を手にしている。ひどい治安の街で貧しい家に育った若者はすべてを手に入れるとともに力が出なくなった。散財に私生活のトラブルも重なり、蓄えをなくす。貧困者の施設に泊まることもあったそうだ▼ただ戦うのをやめなかった。日本でアントニオ猪木さんとも戦い、四十代までリングに上がっている。その後の脳の障害は戦いすぎの影響とも言われる。がんなど多くの病気とも闘った。最後までファイターであったと遺族は言う。一瞬ながら消えない光を放った人だろう。

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