<社説>孔子廟に「違憲」 文化を萎縮させぬよう

2021年2月25日 06時53分
 儒教の祖・孔子を祭る孔子廟(びょう)に那覇市が土地を無償提供したのは「違憲」。最高裁は憲法の政教分離原則に反するとした。「論語」は宗教でなく教養として親しまれており異論も出そうだ。
 「子曰(いわ)く…」は漢文の授業で習った人も多かろう。中国古典は日本でも古来、学問の対象だった。七〇一年には、大学寮で孔子を祭る行事が行われた記録が「続日本紀」にある。
 江戸時代には儒学、とりわけ朱子学が幕府の官学となり、その精神は庶民に至るまで大事な道徳規範でもあった。伝統的に日本でも文化や慣習になじんでいる。宗教意識はほぼ希薄で、むしろ教養や哲学としてであろう。
 今回の訴訟の対象は那覇市内の公園に二〇一三年にできた孔子廟だ。市の敷地を一般社団法人「久米崇聖会」に無償提供していたことを問題視する市民が起こした訴訟で、憲法の政教分離に反するかどうかが争われた。
 当時の翁長雄志市長(故人)が「体験学習施設」として届け出を受け、使用料の全面免除を認めていた。訴訟でも市側は「沖縄の歴史、文化を伝える施設で宗教性はない」と反論したが、一審・二審は「違憲」。最高裁も「宗教性がある。観光資源や歴史的価値により、ただちに土地の無償提供の必要性が裏付けられない」などと述べ、違憲判断を下した。
 「久米崇聖会」は十四世紀以降に中国から渡来した人の子孫によって運営される。正会員が限定され、孔子を祭る特別な行事などに着目した判決だった。だが、大部分が無料公開され、儒教や地域の歴史に関する教養講座が一般の人向けに開かれてもいる。
 「論語」は長く日本でも愛されてきた。全国各地にも孔子廟があり、その運営にも影響を与えかねない。例えば東京都文京区にある「湯島聖堂」は土地建物とも国の所有で、国の史跡でもある。運営団体が孔子祭も行う。
 栃木県足利市の「足利学校」には日本最古の孔子廟があるが、所有は足利市、運営は同市教育委員会である。市民団体が孔子を祭る儀式も行うが、観光や歴史文化を知る目的だという。
 もっとも判決には「宗教の普及活動はうかがえない」「政教分離規定の外延を過度に拡張する」などと反対意見も付いた。社会通念に照らし妥当な判決なのか議論を呼ぼう。日本の歴史に根付いた文化活動の萎縮につながるなら、なお残念だ。

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