「おしごとたいへんだったね がんばったね」 終わりが見えないコロナ集団感染…神奈川の施設職員を支えた娘の言葉

2021年2月25日 22時42分
 スマートフォンが鳴るたびに「熱発が出ました」という発熱患者発生を知らせる報告。あと数日で2週間の「健康観察期間」が終わるタイミングでの感染判明―。昨年8月に新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)発生を経験した神奈川県逗子市の有料老人ホーム「けいすいone’sホーム ゆるりと」の職員がつらかった日々を振り返った。

「終わりが見えないことがつらかった」と話す西久保さん

 「ああ、また2週間か、と。がっくりきました」。施設長で看護師の西久保涼子さん(48)がクラスター対応で一番苦しかったのは、終わりが見えないことだったという。
 PCR検査で陰性だった人も実は感染している「偽陰性」かもしれず、偽陰性の人が発症する可能性があり注意が必要な2週間の「健康観察期間」に新たな感染者が出なければ、一段落となる。しかし、新たな感染が判明すれば期間はリセットされ、その日から再び健康観察期間が始まる。あと数日で期間終了というタイミングで感染が判明したときには、ゴール直前にゴールテープの位置が後ずさった感覚だったという。
 職場を後にしても緊張は続いた。スーパーでの買い物などは控え、家族に感染させないように料理は一切しなかった。「みんなの前で暗い顔をしたくない」と職場ではずっと気を張っていたが、最初の感染判明から2週間ほどたったある日の夜、自宅で寝支度をしているときに長女(21)に「お母さんもきついよね」と声をかけられ「きついに決まってるじゃん」と涙が止まらなくなったという。
 「肉体的よりも精神的にきつかった。動いているときは大丈夫だけれど、ふと時間ができたときに、あ、つらいなって」
 8月末に健康観察期間が終了し、クラスターは「収束」と判断された。しかし、その後も、感染を経験した職員の中に体調が戻らず復帰できない職員がいて、残った職員は厳しい勤務状況が続いた。職場がギスギスしないよう、折に触れて職員に「感染した職員もつらいし、残った職員もつらい。みんなつらいのは同じだよ」と声を掛けたという。
 同ホームを運営する医療法人景翠会の宇夫方衆事務長(55)は、最初の判明からしばらく毎日のように「熱発が出ました」と連絡があり、「スマートフォンを見るのが怖かった」と明かす。
 施設で対応に当たったため自身も濃厚接触者に。自宅に用意された隔離用の部屋に、6歳の娘からの手紙が貼ってあった。「おしごとたいへんだったね がんばったね」。父親を思いやる言葉に、ふさいでいた気持ちが軽くなった。「クラスターは大変だったが、悪いことばかりではなかった」と笑顔を見せる。

宇夫方さんの部屋に貼られていた6歳の娘の手紙(本人提供=一部画像処理)

 同施設ではコロナが重症化した患者はおらず、クラスターを理由に退所した入所者も、退職した職員もいなかった。ただ、今も息切れや味覚や嗅覚の障害などの後遺症に苦しむ職員がおり、「まだ収束したと思っていない」と宇夫方さんは言う。「後遺症がすべて癒やされたときこそ、本当の意味での収束になると思う」

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