期待感低い最高齢の大統領…でも米国復活へ「持ってる」ものとは

2021年2月26日 06時00分

米大統領選に向けた初の大規模集会で演説後のバイデン氏と筆者(右)=2019年5月、東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで

<ここに注目!>
 バイデン大統領が就任して1カ月がたった。深刻な政治的、社会的な分断のもと激烈な大統領選が行われ、連邦議会襲撃事件まで発生した末に誕生した新政権。米史上最高齢の大統領に対する期待値は高いとは言えない。だが、バイデン氏が今の米国を導く立場に選ばれたのには、それなりの理由がある。(アメリカ総局・金杉貴雄)

◆新大統領誕生でも沈鬱…12年前と大きく異なる

 「国としてこれを続けてはならない。アメリカ合衆国として一つになり、ともに戦わなければならない。私たちは乗り越える」。新型コロナの国内死者がついに50万人にまで達した2月22日。バイデン氏はそう決意を示し、追悼のため置かれた500本のろうそくを並べたホワイトハウス前で祈りをささげた。
 米国で初の死者が確認されてからちょうど1年。「50万人」は、前年度のインフルエンザ死者2万2千人の20倍以上だ。ファウチ国立アレルギー感染症研究所長は、トランプ前大統領がマスクをしなかったことで着用が政治的な意見表明になるなどの分裂が、この「驚異的な」損失につながったとの見方を示している。
 新大統領就任にもかかわらず、新型コロナの深刻な影響や分断で米国は沈鬱ちんうつな空気に包まれている。同じ民主党の大統領でも、リーマン・ショック直後の危機にありながら、オバマ大統領(当時)が「若きリーダー」「黒人初」として「Yes We Can」の合言葉とともに登場した12年前の希望にあふれた状況とは、あまりに異なっている。

◆熱狂なくともエネルギー、そして「彼しかいない」

 バイデン氏の活動を記者が初めて直接目にしたのは2019年5月、東部ペンシルベニア州フィラデルフィアでの大統領選出馬表明後初の大規模集会だった。

22日、米ホワイトハウスで、50万人に達した新型コロナの死者を追悼するバイデン大統領(左)ら=AP

 民主党内の候補者選びでは当時から、知名度があるバイデン氏がトップだった。ただ、70代後半の高齢。保守層から熱烈な支持を得ていた現職のトランプ氏に対抗できるのか、もっと若い清新な候補はいないのか―。そんな疑問を抱きながら取材していた。
 だが「この国の魂をめぐる闘い」を訴え、分断した米国を団結させると呼び掛ける姿には力強さもあった。何より集会後には、熱中症で倒れる支持者もいた真夏のような暑さの中で1時間半以上かけて会場をゆっくりぐるりと回り、詰め掛けた聴衆たち一人一人と丁寧に言葉を交わし笑顔で写真撮影に応じてみせ、エネルギーを感じさせた。
 「国民をまとめ、トランプ氏から政治を取り戻すことができるのは彼しかいない」。その会場にトランプ集会のような「熱狂」はなかったが、話を聞いた男性がそう断言していたのが印象的だった。
 その後、1年半の長い戦いの末、バイデン氏は民主党の指名を勝ち取り、トランプ氏にも勝利した。

◆特異な大統領を生んだ期待が高すぎたオバマ政権

 なぜバイデン氏が大統領選に勝ったのか。それは「トランプ氏が大統領になったから」だ。歴史に「たら、れば」はないと言われるが、2016年の大統領選は民主党候補ヒラリー・クリントン氏が総得票でトランプ氏を上回ったものの、各州の戦いで極めて僅差でトランプ氏が勝った。もしヒラリー氏が勝っていればバイデン氏の出番はなかったし、特異なトランプ氏が対立候補でなければ今回、バイデン氏が求められることはなかっただろう。
 ではなぜトランプ大統領が生まれたのか。遠因には近年の民主党、特にオバマ政権の「失敗」がある。
 オバマ政権の評価はさまざまだが、功績は少なくない。自主・自立の風潮が強い米国で格差是正に向け、全国民の医療保険加入を目指し無保険者や劣悪な保険を減らした「オバマケア」。大統領選の取材でも「オバマケアに助けられた」と語る人に何人も会った。
 「核なき世界」を掲げ、米ロの核軍縮条約「新START」を締結。イランの核保有を止めるため、英国なども加わる核合意を結んだ。地球温暖化対策では中国を巻き込み「パリ協定」もまとめた。
 だが、期待があまりにも高すぎたのだろうか。米国内では現在、オバマ政権に対し共和党だけでなく民主党支持者からも「失望した」との声は少なくない。
 リーマン・ショックからの経済回復は速くは進まず、社会の格差は拡大。大学の学費は高騰し、多くの学生が卒業後も何百万円もの学生ローンを背負い苦しんでいる。中東などからの米軍撤退ははかどらず、「アラブの春」を後押ししたものの逆に混乱を生み、中東で「イスラム国」(IS)の横行を許したとの批判もある。貿易や軍事、人権などで国際ルールを守らない中国に甘い対応を続けた。特に自由貿易体制を擁護し推進するあまり、国内労働者の苦境に鈍感だった。
 トランプ氏が批判した北米自由貿易協定(NAFTA)、環太平洋連携協定(TPP)を推し進めたのはクリントン政権、オバマ政権といずれも民主党だった。
 米国の分断を広げたのはトランプ氏だったが、その素地をため込んでトランプ氏の勝利を呼び込んだのは、共和党レーガン・ブッシュ(父)政権の新自由主義の流れに乗った民主党政権だった、との見方もある。
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