コロナ禍の孤立感…同じ月を見る他者の痛み想像して 横浜で28日から作品展

2021年2月26日 17時00分
 新型コロナウイルスの感染防止で人と交流する機会が減る中、孤立を感じる人がそれぞれの居場所から見た月をテーマにした映像作品などの展覧会「同じ月を見た日」が28日、横浜市で始まる。主宰するのは、10年ほど前に引きこもりを経験した市内在住の現代美術家渡辺篤さん(42)。「離れていても同じように見える月を介して、他者の痛みを想像できたら」と願う。(杉戸祐子)

◆円形スクリーンに月齢違う70枚の写真使う

 日が沈んだ後、JR横浜駅と桜木町駅のほぼ中間の高架下にあるアトリエ兼会場を訪ねると、「月」が浮かんでいた。

会場のスクリーンに映し出された月=横浜市西区で

 直径3.3メートルの円形のスクリーンに、月齢の違う70枚の写真を使ってクレーターの陰影を緻密に映し出した映像。スクリーンの中の月は15分ほどで満ち欠けする。
 写真は国内外の約50人から送られてきた約1000枚から選んだ。渡辺さんが会員制交流サイト(SNS)などで呼び掛けた月の観察・撮影に応じた人たちだ。コロナ禍で孤立を感じている人、発達障害や聴覚障害のある人、シングルマザー、独り暮らし、パワハラやセクハラの被害者など背景は多様。英国やフランスなどからも写真が届いた。

◆カーテン閉め、空見ることもなかった

 渡辺さんは2009年に東京芸術大大学院を修了後、居場所の喪失や人間関係、将来への不安から7カ月半、自室に引きこもった。カーテンを閉め、空を見ることもなかったが「母が自分以上に悩んでいると知り、自分の痛みだけに執着するロックが外れた」。

電球を月に見立てた作品の前に立つ主宰者の渡辺篤さん=横浜市西区で

 13年に美術家として復帰。18年に「アイムヒア プロジェクト」を立ち上げ、引きこもりの当事者らと共同制作を重ねてきた。
 昨年春ごろ、次の構想を練る中で「コロナ禍では社会全体が孤立の当事者になっている」と気付き、共同制作の対象を「孤立を感じるすべての人」に広げた。自らは最初の緊急事態宣言が発令された4月7日、スーパームーンと呼ばれる大きな満月の夜から撮影を始め、参加を呼び掛けた。

◆「別の場所で他の誰かも同じ月見ている」

 「多くの人が見つめる一つの存在。誰かが見上げる時、別の場所で他の誰かも同じ月を見ている」
 月をテーマにした理由を、そう語る。新型コロナは世界中に深刻な影響を与えているが、大気汚染や光害の改善で月が見えやすくなった面もあり、「影だけでなく光の面もある」との思いも込めた。

会場が面する国道16号越しに見える月=横浜市西区で

 会場には寄せられた約1000枚の写真や、月をイメージした6個の白い球状の電灯も展示。電灯は会場にいないメンバーが明るさを遠隔操作し、「ここにいない人」を想像してもらうことを狙った。「一緒にいない人の存在を想像しようとする意識が、アフターコロナの時代に残ることが大事。社会が他者の痛みを想像することをやめたら、差別やいじめ、ヘイトが生まれる」と渡辺さんは話す。
 3月21日までの午後5時~9時半(水曜休み)、横浜市西区桜木町の「R16 studio」で。無料。初日~3月5日は公開制作を行う。会場が面している国道16号越しの鑑賞もできる。問い合わせはサイト(「同じ月を見た日」で検索)のメールフォームから。

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