<月刊 SDGs 2021年2月号>性別を超え生きやすい社会に

2021年2月27日 07時17分
 国連のSDGs(持続可能な開発目標)の目標5は「ジェンダー(社会的につくられた性差)平等を実現しよう」。日本の取り組みが遅れている現状が、森喜朗元首相の女性蔑視発言であらためてあらわになった。
 構造的な問題は根深いが、若い世代の挑戦も始まっている。
 貧困や差別をなくす活動をしている国際非政府組織(NGO)プラン・インターナショナルのユース(若者)グループは昨年度、「広告でのジェンダーの描かれ方」について15~24歳にネットで意識調査をした。
 約42%が不快感や違和感を持った広告があると答え、理由で多かったのは男らしさ、女らしさといった「ジェンダーの固定観念の助長」だった。
 グループでは、広告に登場する人物を、性的対象やモノとしてではなく、個性や能力のある人格として描いているかなどの自主点検を求めるチェックリストを作成。広告主の企業が作る日本アドバタイザーズ協会に伝えた。

昨年8月にワッフルがオンラインで開いたウェブサイト制作教室の様子(ワッフル提供)

 メンバーの高校2年女子の永富さん(17)=東京都=は「思春期は自己が確立する時期。理想像の押しつけは変えていかなくてはと思った」。大学4年女子の中條さん(23)=同=は活動の先にあるジェンダー平等の実現で「性別を超えて、個々の存在に想像力を働かすことができる優しい社会になる」と考える。
 固定観念は進路選択にも影響する。田中沙弥果さん(29)は一般社団法人「Waffle(ワッフル)」を設立し、女子中高生対象のウェブサイト制作教室などを開催している。男性が多いITの世界を変えていくためだ。
 女子がIT分野を選択しないのは複合的な背景があると考えている。親が理系を勧める割合は息子より娘の方が低い。教員などお手本となる理系の女性も周囲に少ない。
 共同代表の斎藤明日美さん(30)は「テクノロジーが使えるかは雇用においてますます重要性を増す」と指摘する。理系は男子という刷り込みを放置すれば経済格差も広がってしまう。
 AIを使った採用システムが女性を差別する欠陥があることが分かり、企業が運用を取りやめた事例もある。ITによる新たな社会基盤作りの担い手の多様性は、皆が生きやすい未来が実現するかどうかの鍵も握っている。 (早川由紀美)
 ※プランの方針でユースのメンバーの名前の表記は名字だけとしています。

◆ 30%クラブジャパン創設者・只松美智子さん
 高度成長期の成功体験 変わろうとしない日本

只松美智子さん(本人提供)

 政府は「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」という目標を先送りしました。壁を乗り越える道筋を、企業の女性役員比率向上を目指す「30%クラブジャパン」の創設者でもある只松美智子さん(デロイトトーマツグループシニアマネジャー)と考えました。
 −SDGsの達成度に関しても、日本はジェンダー平等が最大の課題の一つに挙がっています。
 「まず、SDGsにおけるジェンダー平等の位置付けから話したいと思います。ジェンダー平等はSDGsを掲げた国連決議の前文にも記されています。17の目標のうちの一つであると同時に、すべての目標の達成につながる横断的な価値があるということです」
 −30%クラブは企業等のトップがメンバーになっているのが特徴です。
 「30%クラブは意思決定機関である役員会の多様性を目指しています。気候変動や技術の進化など、経験したことのない変化の中で、今までの延長線上では未来は測れない。意思決定機関に女性がいて多様な価値観がぶつかることで、過去にとらわれない正しい判断ができ、目標達成のためのアイデアも生まれやすくなる。一方で、企業でジェンダー平等を実現するには構造改革が必要で、権限を持っているトップがまず動かないといけない」
 −女性の役員比率30%を達成している日本の企業はあるのですか。
 「資生堂やローソンは40%を超えています。まだ少ないですが増え、女性役員がゼロというところも減ってきました。2018年ごろから急激にその傾向が強まっています。その年にコーポレートガバナンス・コード(東京証券取引所の企業統治に関するガイドライン)が改定され、取締役会に求められる多様性にジェンダーが明記されました。金融機関や年金基金など、機関投資家のESG投資(注1)重視の世界的潮流も急速に強まっています」
 「ただ日本では高度成長期の成功体験に引きずられて自分たちがやってきたことを過大評価し、変わろうとしない側面も強い」
 −今後ジェンダー平等を加速させるには。
 「政産官学それぞれが協力して取り組まなければならない。統合的な課題解決へのアプローチが必要です。メディアの責任も大きい。女性だから、という性別役割分担のステレオタイプ(固定観念)を小さい時から植え付けられると選択肢が狭まる。能力があっても発揮できないのは、社会にとって大きな損失です。ステレオタイプを撲滅していくよう、発信する内容を変えていくべきです。個人の潜在能力をしっかり生かせる社会の実現がジェンダー平等の本質です」
 「世界的に環境問題などで活発に行動している若いZ世代(注2)の声を前面に出していくのも一つの方法です。メディアも積極的に取り上げ、政策にも彼らの意見を生かしていくといい。企業にとっては消費者であり、将来の社員候補でもある。うまく化学反応が起きれば、企業も良い方向に変わっていきます」

ベルリンで行われた温暖化対策を訴えるデモ。世界でZ世代の若者が声を上げている

<ただまつ・みちこ> 外資系コンサルティングファームを経て2010年入社、ソーシャルインパクトユニット所属。社会課題、特にジェンダーに関わるさまざまな課題解決に向けたコンサルティングサービスを提供している。「30%クラブジャパン」創設者。
<30%(サーティーパーセント)クラブ> 企業の役員に占める女性比率を30%に引き上げることを目標に2010年に英国で始まった世界的キャンペーン。30%クラブジャパンは19年に活動を開始。メンバーは資生堂の魚谷雅彦社長ら60人。
 (注1)<ESG投資> ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance=企業統治)の頭文字。これらの課題への企業の取り組みを投資の判断材料とする。コロナ禍以降、一段と関心が高まっているが、評価の指標をどう設定していくかが課題となっている。「ガバナンスにおける多様性については、取締役会の女性比率が高いことが企業業績に良い影響をもたらすということがリーマン・ショック以降のデータで分かっているので、投資の判断材料にしやすい」(只松さん)
 (注2)<Z世代> 1990年代中盤以降に生まれた世代。ネットが当たり前の環境で育ち、SNSでの情報交換も活発で、その中から社会運動も生まれている。1960年代中盤から80年ごろに生まれた世代を「ジェネレーションX(X世代)」と呼ぶ世代論が広まり、その後の世代がY世代、Z世代と分類された。 

関連キーワード


おすすめ情報

SDGsの新着

記事一覧