「恋と革命」の死 岸上大作 福島泰樹著

2021年2月28日 07時00分

◆闘いと恋の苦悶を叙述
[評]小嵐九八郎(作家・歌人)

 六〇年安保闘争の動きを高校や大学、街頭、テレビ、あるいは国会周辺の現場で見た人々や、それから五年以後に生起した学園闘争とベトナム戦争反対に立った人々の心の中には、死して六〇年ほど経(た)つ岸上大作の、例えば《装甲車踏みつけて越す足裏の清しき論理に息つめている》などの短歌を胸底のどこかに置いているような気がする。六〇年安保のピークで樺(かんば)美智子が死んで半年後に、睡眠薬百五十錠を飲み、その上にロープで首を吊(つ)って自死した衝撃に解(わか)って解らぬような思いを重ねながら。
 岸上大作の命日の満六十年に、このまま黙っていてはいけねえ、あのナイーブだけれど闘いと思い込みが激しいとしても恋との悶(もだ)えを、そしてそこから生まれた練れていなくて未成熟ゆえに切なく、愛しく、胸を撃つ歌を現今の人々へと、推定するに切羽詰まって記したのが、この福島泰樹の書であろう。歌人は無論、むしろそれ以外の人々の方が知っているこの著者は、今は寺の住職をして、短歌の“絶叫コンサート”をやって生の声、音楽、肉の姿と共に訴えている。《樽見、君の肩に霜ふれ 眠らざる視界はるけく火群ゆらぐを》や《二日酔いの無念極まるぼくのためもっと電車よ まじめに走れ》などを初期に作り、社会の動き、歴史とおのれの噛(か)み合い、歌は読み手が曲をつけたくなるリズムの革命性を持ち続けている。
 この書では、岸上大作が父をマラリアの戦病死で失ってからの母の愛と母の苦しみを切実に描いていて、その自死に至る闘いと恋の交叉(こうさ)と切断を、ノンフィクションを遥(はる)かに越える情と切なる文で叙述している。評者だけでなく読者は、ぐすーんとなるはず。戦禍は甘くはなく、コロナ禍どころではないのである。
 また、著者は四歳上の岸上大作の生き方の痛みや苦悶(くもん)に参るだけでなく、その自死を叱咤(しった)もしている。やはり、生きてほしかったのである。
 読了して暫(しばら)く経つと、この書は、青年に向け「歴史、社会と向かい、生き、歌を」との志があるのだと考えた。
(皓星社・1980円)
福島 1943年生まれ。短歌絶叫コンサートを創出。
岸上 1939〜60年。遺作集『意志表示』。

◆もう1冊 

DVD『福島泰樹短歌絶叫コンサート総集編/遙かなる友へ』(クエスト)

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