ロッキード 真山仁著

2021年2月28日 07時00分

◆疑惑の本筋は軍用機導入
[評]佐高信(評論家)

 ウォーターゲート事件で失脚したリチャード・ニクソンの強力なスポンサーがロッキード社だった。このアメリカ大統領が辞任しなければ、ロッキード事件は起きなかった可能性が高い、と著者は指摘する。そして、米中央情報局(CIA)とロッキード社の相乗りでアメリカ政府の秘密の外交目的を達成するため、代理人で右翼の児玉誉士夫が使われた。児玉と言えば関係が深いのは中曽根康弘だが、中曽根は若い頃からニクソンの補佐官、ヘンリー・キッシンジャーに師事していた。
 こう並べると、ロッキード事件は違った姿を見せてくる。「田中角栄の事件」ではなく「中曽根康弘の事件」となってくるのである。当時のアメリカの公文書が明らかになり、自民党幹事長だった中曽根がアメリカ政府に「もみ消す(MOMIKESU)ことを希望する」と要請したことも暴露された。
 著者は当時の関係者で現存する人を訪ね歩いているが、では中曽根は何をもみ消したかったのか? 疑惑の本筋は旅客機ではなく軍用機だった。最初は売らないと言っていた対潜哨戒機P−3Cをアメリカは一転して売り込もうとする。その手先となったのが中曽根であり児玉だった。
 P−3Cは一機約百億円。百機導入したので一兆円のビジネスとなったが、全日空が買ったロ社のトライスターは二十一機で約千五十億円である。児玉がロッキードから受け取った二十一億円はP−3Cの手数料だった。
 なぜ、中曽根ではなく田中がねらわれたのか。それを著者は関係者の証言に自らの推理をまじえて展開していく。
 評者はここに出てくる作家の本所次郎に紹介されて全日空会長の若狭得治と会った。著者も若狭と本所に好印象を持っているようだが、共に謀略をめぐらすことのできる人物ではない。検察の描いた筋書きを若狭をはじめとした全日空および田中角栄らは押しつけられた。
 すべては「バイ アメリカン(アメリカのものを買え)」に始まるという著者の事件の見取り図は説得力がある。
(文芸春秋・2475円)
1962年生まれ。作家。2004年、『ハゲタカ』でデビュー。『標的』『トリガー』など。

◆もう1冊 

春名幹男著『ロッキード疑獄』(KADOKAWA)

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