笑いに潜む差別を自問 『おもろい以外いらんねん』 作家・大前粟生(あお)さん(28)

2021年2月28日 07時00分

(河出書房新社提供)

 近年、お笑いの世界では「人を傷つけない笑い」という言葉がしばしば用いられる。外見をあげつらう、あるいは男女の性役割を強調することで生まれる笑いに、抵抗を感じる人が増えたことが背景にはある。本書は、その「笑いに潜む差別」というテーマに向き合った青春小説だ。
 主人公の咲太は、お笑い芸人になった幼なじみ、滝場の出演番組を見て複雑な思いを抱く。人の容姿を「いじる」トークに、<こういうの嫌(いや)やな>と思いながらも、つい<画面のなかのノリに合わせるようにして>笑ってしまう。
 「何かをできない人、常識や環境に合致していない人を『いじる』笑いは、つまり異端の存在を笑うということ。分かりやすい笑いではあるが、嫌だなという気持ちもあった」。お笑いが好きで劇場に見に行くという著者自身の実体験が下敷きになっている。「笑いというのは楽しいもののはずなのに、それを生むために誰かを犠牲にすることがある。『自分たち』以外の存在を笑うことで、親密感を強化する側面もある」
 線引きをすることで生まれる笑いの背後には<『自分たち』を大事にする男子ノリ>があると咲太は気づく。そして、それが自分の中にも存在することに思い悩む。今日的であり、新鮮な主人公像だ。
 <なにかに対してダメだってまっすぐなことをいうのはきれいごとって感じで避けてしまう>のはなぜか。<おもろい以外のことを芸人にいうのは野暮(やぼ)>なのか。自問を続けた咲太が、滝場に直接思いをぶつけるラストシーンでは、「おもろい以外いらん」という象徴的なタイトルが、当初の印象とは異なる意味を伴って響いてくる。
 二〇一八年のデビュー短編集『回転草』以降、奇想天外な作風で執筆してきたが、昨年刊行の『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』では「女性差別に全力で傷つく男性」を描き、テーマ性の強い作品に踏み出した。その系譜にある本書もまた、世界的な盛り上がりを見せているフェミニズム文学への、男性側からの一つのアンサーといえる。
 「大人になるにつれ、今の社会は一個人を何らかの役割に押し込め、萎縮させていると気づくようになった。そんな息苦しさを感じているのは自分だけではないはずだと、まだ会ったことのない誰かのことを漠然と思いながら書きました」
 河出書房新社・一五四〇円。 (樋口薫)

関連キーワード

PR情報