<カジュアル美術館>国宝 色絵藤花文茶壺(ふじはなもんちゃつぼ) 野々村仁清(ののむら・にんせい) MOA美術館

2021年2月28日 07時02分

江戸時代 17世紀 高さ28.8センチ 口径10.1センチ 胴径27.3センチ 底径10.5センチ

 陶器ならではの温かみを感じる白地の曲面に、鮮やかに咲き誇る藤の花。上、正面、下と、どこから見ても、きれいな構図に、思わずため息が漏れる。球形に近い絶妙な丸みに沿って描かれた「三次元絵画」と言える完成度の高さだ。国宝「色絵藤花文茶壺(ふじはなもんちゃつぼ)」は、江戸時代前期の京焼の名工野々村仁清(にんせい)の最高傑作の一つと評される。
 緊張感のある美しい膨らみは、試行錯誤の末に完成したもの。この形を生かした上で、いかに装飾を施すか。立体物と絵画の融合に挑んだ意欲作としても意義深い。
 上からのぞき込むと、口を中心に赤いツルがらせん状に側面に伸び、揺れ動くよう。ツルからは花房が放射状に広がり、壺を回しても構図が続く表現の巧みさが分かる。正面から眺めれば、一枚一枚丹念に葉脈が施された緑の葉にハッとさせられる。そして、下から見上げると、紫や赤、金、銀で彩られた藤の花が垂れ下がり、まるで風にそよいでいるかのごとくに感じられる。平面画では味わえない魅力だ。
 MOA(Mokichi Okada Associationの頭文字)美術館の創立者・岡田茂吉(一八八二〜一九五五年)が長年にわたって入手を願ったが、なかなかかなわず、亡くなる二日前に届いたという逸品。同館にとっても大きな存在で、より多くの人に見てほしいと特別展示室で常設展示している。学芸員の米井(こめい)善明さんは「壺の周りをグルッと回って、いろいろな角度で鑑賞してほしい」と呼び掛ける。
 仁清は生没年不詳だが、ろくろの名手で、一六四七年ごろに京都の名刹仁和寺(めいさつにんなじ)の門前で御室窯(おむろがま)を開いたとされる。本名は清右衛門といい、号は仁和寺の「仁」と清右衛門の「清」にちなむ。茶人金森宗和(そうわ)の仲介で、大名や幕臣たちに優美な茶道具を焼いて名を上げていく。
 その後、本焼きした器に上絵の具で彩色する「色絵」の追究で隆盛。初期は赤や青、水色など落ち着いた色調だったが、次第に金、銀、黒なども加えた華やかなものへと発展させる。蒔絵(まきえ)のように金粉をまいたり、金箔(きんぱく)を張ったりと、さまざまな技法に取り組んだことなどから「色絵陶器の大成者」(米井さん)として位置付けられる。
 金銀彩を使った重要文化財「色絵金銀菱文重茶碗(びしもんかさねちゃわん)」は、斬新なデザインと、あせない光沢が高い技術力を示す名品だ。宗和の依頼で、徳川秀忠の娘で後水尾(ごみずのお)天皇に嫁いだ東福門院に献上されたとの伝承も。米井さんは「茶碗のみやびさ、美しさゆえに、そうした言い伝えも生まれたのではないか」と推測する。
 茶の湯では今も、仁清が焼いた茶道具を模した「写し」が使われることも。一点あれば、場が華やぐ。そんな楽しみ方は途切れることなく、続いている。

重文 色絵金銀菱文重茶碗 江戸時代 17世紀 MOA美術館所蔵

◆みる MOA美術館(静岡県熱海市)=電0557(84)2511=は、JR熱海駅からバスで「MOA美術館」下車すぐ、タクシーで約5分。「色絵藤花文茶壺」は常設展示。「色絵金銀菱文重茶碗」は3月9日までの「名品展 国宝『紅白梅図屏風(びょうぶ)』」で展示中。開館時間は午前9時半〜午後4時半(入館は4時まで)。木曜休館。入館料は一般1600円、高校・大学生1000円、中学生以下無料。
 文・清水祐樹
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