[野ウサギと雪うさぎ] 岐阜県中津川市 早川政敏(50)

2021年2月28日 07時17分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修


[マスク] 岐阜県多治見市・会社手伝い・69歳 柴田昌代

 「目は口ほどにものを言う」とか。
 うれしい目、悲しい目、泣きべその目、怒りの目、驚きの目、恐怖の目、さげすみの目、憎悪の目…。
 じゃあ、マスクの下の口は?
 あっかんべーと舌を出したり、ガムや飴(あめ)を食べていたり、(しめしめ、うまく騙(だま)せた)とほくそ笑んだり。
 叱られて「へ」の字に結び、頑張ろうと食いしばる。
 (あ〜、もうダメだ)と、ため息をつく口もある。
 悲しい時は口元が下がり、楽しいことがあれば上がる。
 美味(おい)しいものを見ると早く食べたくなり、感謝を伝えたくて「ありがとう」と言っても…マスクの下では伝わらない気がする。
 マスクをとって、大声で叫びたい。
 「もっと光を、もっと酸素を!」

<評> 季節が移っても、マスクと縁の切れない日常が続いています。目力(めぢから)だけでは伝えきれない感情が、その内側に溜(た)まっていませんか? うっとうしい気分を、一日も早く吹き飛ばしたいものです。

[松の木] 名古屋市北区・パート・42歳 後藤結香子

 何十年かぶりに生まれ育った町に行ってみた。
 子どもの頃よく行った大きな公園は、遊具こそ様変わりしていたものの、だだっ広い運動場はそのままだった。
 ここでよく父と散歩をしたし、自転車の練習もここだった。
 あっ、あの松の木もそのままだ!
 思うより先に、体が松の木へと駆け寄っていた。
 見上げると、堂々たる松が誇らしげに私を見下ろしているようだった。
 そこで、(いつぞや、あなたの立派な枝を折ってしまって、ごめんなさい)と心の中で謝った。
 ゆっくり近づいてきた父が私の隣に立ち、頭を下げた。
 「昔、娘があなたの立派な枝を折ってしまって申し訳ありませんでした」
 父と私は思わず顔を見合わせ、笑い合った。

 幼い頃のやんちゃなふるまいを、黙って受け止めてくれた公園の立ち木。年月を経て、さらに風格を増したその姿を仰ぎ見て、懐かしさもひとしおでしょう。父娘揃(そろ)って、ごめんなさい、そして、ありがとう。


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